デノン、“セカンドフラグシップ”13.4ch AVアンプ「AVC-A10H」。110周年機に最上位機の技術を大量投入
デノンは、“セカンドフラグシップ”13.4ch AVアンプ「AVC-A10H」を10月中旬より発売する。価格は770,000円(税込)。 AVC-A10Hの内部構造 ■110周年機をベースに、旗艦機のノウハウを大量投入した「セカンドフラグシップ」 同社の田中清崇氏によると、2020年に発売したデノン110周年AVアンプ「AVC-A110」は、110周年モデルの中で最も高い製品だったにも関わらず最も早く完売するほどに高い評価を受けたモデルだったという。 このAVC-A110をベースにしつつ、昨年発売されたフラグシップ機「AVC-A1H」のノウハウなどを投入しつつ、全てを磨き上げて作り上げたのがAVC-A10Hだと説明。デノンでも特別な機体にしか与えられない「A」の型番を冠した、「妥協なき第2のフラグシップモデル」だと位置付ける。 プリアンプ部の「D.D.S.C.(Dynamic Discrete Surround Circuit)」には、32bitプロセッシングを行う最上位タイプの「D.D.S.C. HD32」を採用。ここに最新・最適なデバイスを用いることでアンプ部の小型化を図るとともに、最適なレイアウトによってミニマムシグナルパスを実現。さらにアンテナになるワイヤーを減らし、ワイヤーレス化を徹底している。 DAC部はA1Hの仕様を踏襲し、32bit対応プレミアム2ch DACチップを9基搭載。2chチップの選択によってチャンネル間の相互干渉を抑制しつつ、使用頻度の高いチャンネルと低いチャンネルを組み合わせることで実使用時の干渉を抑制する。 また、全DACを1個の超低位相雑音クリスタルで同期させるとともに、デジタルオーディオ回路の動作の基準となるクロック信号のジッターを取り除く「クロック・ジッター・リデューサー」によって、低歪みで原音に忠実な再生を行うとのこと。DAC用電源もA110はレギュレーターICを使っていたのに対し、本機ではA1Hと同じようにディスクリート回路を用いている。 パワーアンプは13ch全てを個別の基板に独立させたモノリスコンストラクション構成で搭載。A1H譲りの差動1段AB級リニアパワーアンプ回路を用いており、さらにパワートランジスタに「DHCT(Denon High Current Transistor)」を用いることで実用最大出力260Wという大出力と、フラグシップに迫るパフォーマンスを実現したとする。 このDHCTをヒートシンク上に格子状にレイアウトするとともに、ヒートシンク全体を2mm厚の銅板でカバーして放熱効率を向上、大音量時でも安定性の高いスピーカー駆動を実現したという。ヒートシンクには共振の少ないアルミ押し出し材を採用。 DSPは「AVR-X3800H」以降のモデルで使われている最新・最上位チップ「Griffin Lite XP」を採用し、13.4chのプロセッシング出力、Auro-3Dでの13.1ch出力を実現。また、15.4chのプリアウトや、AVプリとして使えるプリアンプモードも備えており、プリアンプモード時はチャンネルごとに個別でパワーアンプのオン/オフを設定することもできる。 電源トランスは容量こそA110と同じながら、巻線にA1H同様のHi-FiグレードOFCケーブルを採用。これによって導電性に優れ、スピード感のあるサウンドを実現したとしている。パワーアンプ用ブロックコンデンサーも、A1Hと同タイプの陽極箔を用いた22,000uFのカスタム仕様を2個採用する。 トランスは単体で8.1kgもの質量を誇るうえ、底部には制振性、放熱性を高めるためにスチール製トランスベースを追加。これらを支え、かつ振動の伝搬を防ぐため、シャーシは合計3.6mm厚になる3層構造のスチールシャーシを採用。さらに電源トランスからの漏洩磁束の影響を最小限にするべく、トランスとオーディオ基板の間にケイ素鋼板と黒色塗装鋼板、プラスチック板を組み合わせた「リーケージフラックス/オーディオ回路セパレーター」を挟み込んだ。 サウンドマスター・山内慎一氏の要望のもと、パーツも高品質なものを多数投入。パーツ点数が多いAVアンプということもあり、A110から実に3桁ものパーツに手を入れたそうだ。 福島の白河工場で生産していることもポイントのひとつで、「設計に生産技術、製造、品質保証、調達という5つの部署が1ヶ所に集中している工場は、世界的に見てもそう多くはない」と田中氏は語る。 イマーシブフォーマットではDolby AtmosやDTS:X、Auro-3D、MPEG-4 AAC、MPEG-H 3D Audio(360 Reality Audio)に対応。IMAX Enhancedやバーチャル3DサラウンドテクノロジーのDolby Atmos Height Virtualizer、DTS Virtual:Xにも対応する。 HDMIは8K/60Hz、4K/120Hz対応のものを入力7系統と出力2系統、4K/60Hz対応のものを出力1系統装備。eARCやHDMI2.1のALLM、VRR、QFTといった機能にも対応する。HDRはHDR10、Dolby Vision、HLG、HDR10+、Dynamic HDRに対応。外形寸法は434W×195H×482Dmm(アンテナを寝かせた場合)で、質量は23.6kg。 ■編集部インプレッション 製品発表に際しAVC-A10Hの音を聴くことができたので、簡単ではあるがインプレッションを記したい。 まずはステレオの音楽ソースでFourplayを試聴すると、近年のデノンAVアンプとはまた毛色が違うことに気づく。中域から低域にかけての密度が高く、ドラムのアタックやベースのうねり、ギターのタッチにエネルギーがみなぎっている。 オーケストラのDolby Atmosソースを聴くと、広い空間性や解像感の高さといった、山内氏のフィロソフィーであるVivid & Spaciousサウンドはしっかり実現。そのうえで演者の熱やエモーションをより引き出すキャラクターになっている印象だ。 映画『ゴジラ-1.0』では、四方八方で飛び散る波飛沫、飛び回るプロペラ機の音がシームレスに動き、サラウンドアンプとしての地力の高さを伺わせる。しかし今回は、ゴジラの足音や熱線などから感じられる、腹の底に響くような迫力ある低音を特筆したい。誤解を恐れずに言えば、AVC-A110以前のデノンAVアンプにあった「格好いい低音」が復活したように思えた。 山内氏は今回、半年ほどの期間をかけてじっくり音質検討を行ったという。ここ最近で発表されたネットワークプリメイン「DENON HOME AMP」やHi-Fiプリメイン「PMA-3000NE」も、それまでと比べると力強い、マニッシュな音になっていたことを考えると、本機は「山内氏の現在進行形が色濃く反映されたAVアンプ」と言えるだろう。
編集部:杉山康介