望む看取りができなかった…家族の後悔 「仏はそんなにせこくない」 身近な人を喪う苦しさの理由
墓参りや看取り「成仏」したら…
浅生さん:何をしたって後悔すると思うんですけども、ただ残った人が多少何かやった感があるというか、自分の気持ちが納得できるところに持っていければいいということなんですかね。 玉置さん:誰かを見送った時、残された方々は「選ばなかった方法の方がよかったんじゃないか」とか「こうしてあげたらよかった」と思うこともたくさんありますよね。 なかには、その思いが高じてしまって、「きっと母はあちらの世界で私のことを怒ってると思います」「もっとこうやってほしかったって恨んでると思います」と相談される方がいらっしゃるんですけどね。 仏教では「成仏」って言うじゃないですか。つまり、亡くなられた方というのは「仏になっている」わけですよね。 仏ともあろう方が、看取りのやり方を恨むなんてね、そんなせこいことはしないんですよ。 そんなことで恨まれてるとか怒ってるとかっていうのは、私達が人間だからで、ちっちゃな頭で考えるとそうなるんです。 お墓参りもそうですよ。「最近、お墓参りをしていないから、墓の周りが草ぼうぼうだからバチが当たる」なんて言う人がいますが、相手は仏ですよ。そんなちっちゃくない。そのへんはね、安心していただけたらな、と思います。 編集者・たらればさん:いま大河ドラマ「光る君へ」をやっていて、紫式部が主人公です。『源氏物語』は死がとても身近にある作品だと言われていて、「光源氏が大切な人を失っていく物語」というふうにも読めます。 お母さんの桐壺更衣が亡くなって物語が始まり、正妻の葵上が子ども(夕霧)を遺して亡くなって、初恋の人の藤壺が亡くなって秘密が暴かれ、第1部の最後のほうで最愛の紫の上が亡くなります。 それで、紫の上の「最期」について、紫の上は自分の死を受け入れているのに、夫の光源氏だけが妻の死を受け入れられないんです。自分が死ぬよりも、話を聞いてくれる「誰か」である身近な人が亡くなる方が、人は苦痛が大きいのではないかと思いました。 玉置さん:自分が死ぬことについては、「いつお迎えが来るか分からない」ということは困るんだけど。死んでしまえば、死後の世界観は皆さんそれぞれ持ってらっしゃると思いますが、天国に行くご予定の方もいればね、無になって何でもなくなりますというご予定の方もいれば、風になるつもりですっていう方もいらっしゃる。それはいいわけですよ。 でも、自分が残ってしまったら。現世で今感じているような苦しさ、つらさ、それに加えてより多く抱えて生きなければならないってことが、リアルに想像できるわけです。だから、そういう意味では、「大切な人を亡くす」っていう方がつらいのかもしれないですね。 でもねそれはもしかするとね、日本人だからというのも大きいかもしれません。 実はスピリチュアルペインって、西洋の方は日本人とは違っていて、最期にどんな苦しみ(スピリチュアルペイン)があるかというと、「神は私を許すか」っていうことが多いんですって。 そこで神との仲介人である神父さんや牧師さんが出てきて、神の声を聞いて「神はあなたを許しますよ」と伝えます。それが西洋のスピリチュアルケアなんですね。 私が終末期の方とお話していて、「仏に許されるだろうか」「神に許されるだろうか」という方にはなかなか会ったことがありません。 浅生さん:原罪って感覚がないんですね。 玉置さん:じゃあ、誰に許されたいと思っているのかというと、家族ですよ。もう父親として母親として、あなたを守ってやることができない。そんな私を許してくれるんだろうか、という横軸です。 それから社会です。もう何も生産できない。生きてるだけ迷惑をかけるだけ。「それでも生きてていいって言ってくれるんだろうか」って許しを乞うてしまう。 このことから考えても、日本社会では、横軸の関係性で互いに支え合って生きているんですね。 そうすると、自分が横軸でつながっている人が、亡くなるということは、自分の死より耐えがたいことなのかもしれないです。 <SNS医療のカタチとは:「医者の一言に傷ついた」「インターネットをみても何が本当かわからない」など、医療とインターネットの普及で生まれた、知識や心のギャップを解消しようと集まった有志の医師たちによる取り組み。皮膚科医・大塚篤司/小児科医・堀向健太/外科医・山本健人が中心となり、オンラインイベントや、YouTube配信、サイト(https://snsiryou.com/)などで情報を発信し、交流を試みている> 玉置妙憂(たまおき・みょうゆう)さんのプロフィール:看護師・僧侶・スピリチュアルケア師。夫を自宅で看取り、その「自然死」があまりに美しかったことから開眼し出家、高野山真言宗僧侶となる。緩和ケア病棟でスピリチュアルケアにあたりながら、一般社団法人「大慈学苑」代表として活動 浅生鴨(あそう・かも)さんのプロフィール:作家、広告プランナー。ゲーム、レコード、デザイン、広告、演劇、イベント、放送などさまざまな業界・職種を経た後、現在は執筆活動を中心に、広告やテレビ番組の企画・制作・演出などを手掛ける。 たらればさんプロフィール:だいたいニコニコしている編集者。Xで古典やマンガについてつぶやき、23.2万フォロワー。「SNS医療のカタチTV」をお手伝い。(https://twitter.com/tarareba722) 水野梓プロフィール:withnews編集長。臓器移植の取材をきっかけに、医と生老病死の関係に興味を持つ。連載「医と生老病死」を担当。