生まれてから死ぬまで動き続ける「心筋」は、他の部位には見られない唯一無二の筋肉
求められる高度なパフォーマンス
前回は動作をつかさどる骨格筋、内臓などを動かす平滑筋について説明しましたが、もう一つ、高度に特殊化した筋肉に「心筋」があります。 「いのちのスクワット」がん闘病中も続けた理由 心筋は自律的(自動的)な収縮をし、その収縮は平滑筋と同じように自律神経に支配されていますが、構造的には骨格筋と同じ横紋筋。つまり規則的な配列の縞模様を持つことで、再現性が高く筋細胞全体で同期した収縮が可能となっています。 しかし、実際の機能は骨格筋とはかなり違います。 そもそも心臓は血液をポンプで送り出す役割を担っているので、袋状の構造をふくらませたり閉じたりする機能が求められます。ということは、本来なら内臓を収縮させるのと同じ平滑筋が向いているはずです。 しかし、生命維持の中核であるという性格上、単純にふくらんだり閉じたりすればいいというものではありません。たとえば一度の拍動で常に同じ量の血液を送り出す機能が重要なので、再現性の高い収縮が求められます。多量の血液を体が欲している時には、それに適切に応えなければいけません。また時には、ゆっくりと安定したリズムでの拍動を続けなければならない場面もあります。 細やかで持続的な血液循環の調整を、生まれてから死ぬまで続ける能力が問われるのです。それを可能にするには、筋肉にもかなり高度のパフォーマンスが要求されます。 まず心臓全体が一斉に収縮してしまうと、ポンプとしての働きを果たせません。チューブの底から内容物を絞り出すように、ある部分が縮んでいる時に別の部分がふくらむといった複雑なコントロールができないと血液をうまく送り出すことも迎え入れることもできません。 骨格筋のように筋線維が長いと、全体が同時に収縮してしまうのであまり好都合とは言えません。むしろ小さい細胞が数多くあるような構造のほうが局所的に収縮をコントロールしやすいでしょう。 このような事情から、心筋は平滑筋と同じように長さが数十μm(マイクロメータ)しかない小さな細胞の集合体でできていて、その細胞同士が電気的に連絡を取り合いながら巧みに収縮しています。そして、その活動の元にはペースメーカーの役割を担う細胞集団(洞房結節)があり、そこからの指令に沿って部分ごとに順序よく収縮が起こるという仕組みになっています。 統合された意味のある収縮をし、理にかなった運動を休みなく続けるためには、小さな細胞であっても個々に再現性の高さが求められます。ですから、細胞のサイズは小さくとも、骨格筋と同じような横紋構造が必要になるわけです。 細胞内のミクロな構造では「ミニ骨格筋」と呼んでもいいほど骨格筋と類似はしているのですが、心筋はあくまでも心筋であり、骨格筋と同じものではありません。人体において重要な役割を担っている特別な筋肉であり、他の部位には見られない唯一無二の筋肉でもあると言えます。