歴史的イノベーターに学ぶ、アトツギxスタートアップ新時代のこれから
スタートアップという新勢力のリソースをいかに共有するか
深井(続き):次の時代のポスト資本主義のキーワードは、“ダブルスタンダード”だと思っています。これは言語知の延長線上にはありません。言語知で経営することは明文化することですから、矛盾を許さない。そうではなく、身体知で経営すると、適度に矛盾が起こります。この適度な矛盾感覚をアトツギは生まれ育った環境の中で自然と身につけています。 岩田:ただ、しがらみがあって変革ができないとか、情に流されて振り切れないなど、アトツギらしさを強みとは認識できていないアトツギも多いです。 深井:過去50年を振り返ると、フロンティアを取っていく世界でした。そこではステークホルダーのことを考えるよりも、短期的な能力を発揮して、新しいリソースを獲得していくことが求められていました。 具体例として環境問題が挙げられます。ビジネスにおいて長らく環境は無視されてきたのですが、現在ではそれではいけないと判明しました。国がやるべきだと思われていた環境保全が、企業の責任だと言われるようになり、ステークホルダーを高度に包摂できる人たちがこの後台頭してきます。そのセンスを持っている人こそがアトツギたちというのが私の仮説です。 岩田:20年間弱みだと思っていたことが、時代が変質することで強みになっているということですね。 深井:この先GAFAみたいな企業は生まれません。次の20年ぐらいはダブルスタンダードで、ステークホルダーをどう包摂するかが重要になり、その中でスタートアップがうまく掛け算されることに意義があると考えています。 岩田:歴史的に見ても、アトツギもスタートアップとどんどんクロッシングしていった方がいいということですよね。 深井:その通りです。これからは、スタートアップのような新勢力が台頭してきた時に、旧勢力がいかに新勢力のリソースを共有するかが大切になります。 武士の台頭がまさにそうです。武士は当初ただの野蛮な人間で、政治に関わるべきではないと思われていました。結局はこの武士を遣っていた貴族同士が争っているうちに、平清盛のような武士が、高い位につくという結果に。源頼朝にいたっては、自分で作った組織が国より強くなってしまった。重要なことは、アトツギ企業とスタートアップがそれぞれの強みを掛け算した際に、お互いのリソースを相互利用しているという感覚を持っているかです。そのためには、メタ認知による相互理解が求められるということではないでしょうか。 深井龍之介◎大学を卒業後、大手メーカーの半導体部門の経営企画を担当。その後複数のベンチャー企業で経営に携わり、2016年に(株)COTENを設立。「メタ認知のきっかけを提供する」をミッションに掲げ、3500年分の世界史情報を体系的に整理。誰もが抽出できるデータベースを開発中。「歴史を面白く学ぶコテンラジオ」をSpotify、Podcast、YouTubeで配信。週間約20万人が視聴する歴史キュレーション番組で、2019年にはJAPAN PODCAST AWARDS2019で大賞を受賞。
Forbes JAPAN 編集部