歴史的イノベーターに学ぶ、アトツギxスタートアップ新時代のこれから
アトツギ企業とスタートアップは「敵にも味方にもなる」
岩田:フランス革命で言えば、王様が持っていた権力を、国民国家という名のベンチャーが奪ってきたということですね。 深井:まさにそうです。現代における最強勢力はビジネスパーソンです。ビジネスパーソンとは、私の定義は「株式会社に所属する人間」です。1600年代のオランダ東インド会社にいた人が最初のビジネスパーソンで、当時は農民たちを集団就職させることで製造業が台頭。日本も同じです。株式会社はビジネスパーソンとして包摂していって最大勢力になり、ついには政治にも口を出すようになるという歴史があります。 今後、国ができなかった仕事をビジネスパーソンが包摂していきます。実際イーロン・マスクやジェフ・ベゾス、ビル・ゲイツなどは強い政治的発言権を持っています。 これを可能にする会社は、日本では東京ではなく地方からしか出てきません。これも再現性が極めて高く、シリコンバレーからも生まれないと確信しています。今、スタートアップと何かを掛け算する次のフェーズに入っていますが、シリコンバレーを再現しようとしたら失敗します。江戸時代が終わったのに、これから旗本と一緒に何かやりましょうというのと同じです。 ■アトツギ企業とスタートアップは「敵にも味方にもなる」 岩田:これからの日本の勝ち筋はどう考えていますか? たとえば戦国時代でいうスタートアップのような斎藤道三と、アトツギの信長や家康とは敵なのか味方なのか? 深井:まずどのような社会環境かということがかなり重要です。もし多くのフロンティアがあり、新しい土地、新しい市場、人材も豊富であれば、敵対関係になります。新勢力が、旧勢力の力を借りなくてもやっていけますから。かつてアメリカ開拓時にイギリスの力を借りなかったように。 しかし、今のように市場が限られ、土地もない。いわばリソースが限られている状況では、基本的には仲間として手を取り合わない限り、双方破滅してしまいます。これが今までの歴史から言えることです。 ■身体知重視の日本人と言語化重視の欧米人 岩田:歴史的リーダーの共通項はあるのでしょうか? 深井:カリスマ性や能力があるということになると思うのですが、これは意外と地域差があります。たとえば、日本で小泉純一郎氏や田中角栄氏は、スピーチがうまい首相と言われていましたが、アメリカの大統領とは比べものにならないくらい低レベルでした。ただ日本人は自分を律して行動する人種です。歴史から見ると、国家としてうまく機能していた時期は、強力なリーダーは必要ないため、スピーチのスキルは問題ではなかったのです。日本の製造業とサービス業が強いのも、実はリーダーとマネジメントが優れているからではなく、現場のモラルが高いからだと思っています。