決済における2025年の展望、加速するAI変革と多様化する事業形態--ストライプ・ヘフェルナン代表
2025年に向けたIT企業のトップメッセージや年頭所感を紹介する。 ストライプジャパン 代表取締役 Daniel Heffernan(ダニエル・ヘフェルナン)氏 謹んで新年のごあいさつを申し上げます。 2024年も決済業界はキャッシュレス化が進み、さらにデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速し、決済のスピードと効率性がさらに進化したほか、選択肢も増えました。新しいビジネス機会が訪れると同時に、多くの複雑性やリスクも明らかになり、対応が求められています。決済業界は2025年も引き続き、AIによる自動化や複雑化する不正対応、進化するビジネスモデルに対応する新たな決済プロセスに加え、多様化する国際間の取引など、さらなる活発な動きが見られると予測されます。 Stripeでは、インターネットの国内総生産(GDP)を拡大するという使命の下、決済と資金のグローバルネットワー(GPTN:GlobalPaymentsand TreasuryNetwork)を強化する傍ら、年間決済総額が約GDPの1%に相当する1兆ドル(約150兆円)を超えたほか、オープンエコシステムの導入など、節目の年となりました。 急成長するAI活用 2024年は、生成AIが着実に進歩を遂げ、世界的にもAIスタートアップが活発化し、AI技術の発展やその汎用性が加速した年でした。生成AI国内市場規模も1000億円を超え、今後3年間で8000億円に到達すると見られています。 Stripeでは、収益性を高めるためのエンジンとしてAIを活用しており、Stripeプロダクトをご利用いただいている企業の事業収益を向上させ、そのコストの削減をお手伝いしています。 StripeのAIソリューションは、年間決済額1兆ドルという数百万に上る企業が数億回の決済処理を実施したデータを基に成り立っています。2024年末には、大規模言語モデル(LLM)を用いるAIエージェントと金融サービスを繋ぐ「Stripeエージェントツールキット」の提供を開始しました。これにより、LLMで決済や請求処理などのアクションを呼び起こし、AIによるエージェントワークフローに決済プロセスを盛り込むことが可能になります。AIによる決済の自動化は、2025年もさらに加速していくと見られています。 また、Stripeは早期に事業を拡張するためにスピード感と効率性および生産性を重視するAI企業の決済基盤を支えています。OpenAIとの戦略的提携をはじめ、PerplexityやMidjourney、Anthropicなど、2024年Forbes「注目すべきAI企業50社」の3分の2のAI企業がStripeを活用しています。また、AI半導体市場をけん引するNVIDIAと新たにグローバルパートナーシップを発表しました。 不正対策へのアプローチ 不正対策も企業にとってますます重要な課題となっています。オンライン上の不正利用や詐欺行為は増加しており、2024年のクレジットカード不正利用の被害額は2023年の最高被害額540億円を更新する見込みです。 これを受け、日本ではクレジットカード取引を行うビジネスが実施するべきセキュリティ対策として2025年の3月末までに日本国内のEC加盟店にて「3Dセキュア2.0」(EMV3-Dセキュア[3DS])の導入が必須化します。Stripeでは、欧州の強力な顧客認証(SCA)や米国で3DSの効率的な導入をサポートしてきた経験を生かしてユーザー企業の導入準備のお手伝いをしています。 また、世界中の100万社以上の決済データを分析した機械学習を活用し、不正対策プロダクト「StripeRadar」で不正な決済や詐欺などを早期発見し、セキュリティの強化と売上への悪影響を最小化することを実現しています。 ほかにも、2024年は不正防止のためのソリューションをさらに幾つか投入しており、信頼性の高い本人確認(eKYC)機能を迅速かつ簡単、安全に行うことができる「Stripe Identity」の提供を開始しました。運転免許証やパスポートなど、国内外の主要な政府発行の身分証明書に対応しており、増加するインバウンドや海外在住顧客の本人確認をスムーズに実施できます。 また、カード情報の漏洩が増える中、カード番号に代わるセキュアな情報として注目されているのが、次世代の認証情報「ネットワークトークン」です。 ネットワークトークンは、PAN(クレジットカードなどにある15または16桁のプライマリーアカウント番号)の代わりにオンライン購入時に使用される支払い認証情報で、主要なカードネットワークと連携してこのトークン化を管理します。これにより、カードデータが変更されても自動的に更新され、最新の決済情報を常に維持します。 Stripeでは、この情報漏洩対策として信頼されるネットワークトークンを、日本でいち早く普及できるよう力を入れています。また、決済における成功率や売上の向上につなげるためには、不正な決済の検知だけでなく、決済の速度や安定性も重要です。そのため、昨年、国際カードブランド3社(Visa・Mastercard・AmericanExpress)との直接接続を国内Payment Service Provider(PSP)で唯一実現しました。 スケーラブルな事業形態の多様化 近年のStripeユーザーの傾向として、サブスクリプションへの移行やプラットフォームビジネスの成長、事業のグローバル化が顕著となっています。特にゲームやエンターテインメント、小売、SaaSなどの業界で、事業改革が活発に行われています。 サブスク事業は、新規顧客を獲得するよりも低コストで、顧客生涯価値(LTV)を高める効果的な方法です。2025年には国内サブスク市場は1兆円を超えると予測されており、多くの分野でサブスク化が促進されている分、多様なニーズが生じてきています。 従量課金の導入は複雑で、柔軟な価格戦略による料金設定や業務の自動化、開発工程の効率化など、課題が多いビジネスモデルでもあります。弊社が実施した調査によると、80%の会社において、財務部門の業務時間の40%がサブスク決済データの収集や修正、集計などの手作業に費やされています。 その負荷を軽減するため、Stripeではサブスク事業向けソリューション「StripeBilling」を2018年より提供しています。移り変わる事業トレンドに合わせて幅広い価格設定モデルをサポートしているほか、利用データの取得や事業分析が簡単にできる機能を搭載しており、現在30万社以上の企業が利用しています。2024年10月には、オープンエコシステム化によるマルチプロセッサーサポートを拡大し、さらに分析機能の向上、従量課金の強化など、市場ニーズに基づいたアップデートを図りました。 同様に、多くの企業がプラットフォームビジネスに注力している傾向があります。スケールメリットが非常に大きく、魅力的なプラットフォームを展開することで、売り手と買い手が増え、流通金額や影響力が指数関数的に増加します。 マッキンゼーの調査によれば、2025年までにソフトウェアプラットフォームが世界経済活動の30%を占めると予想されています。一方で、運営企業は法規制やコンプライアンス対応、さらには不正取引の増加といった課題も抱えています。Stripeでは、不特定多数の販売者と購入者のオンライン上での複雑なお金のやりとりを、簡単にできるプラットフォームビジネスのためのソリューション「StripeConnect」を提供しています。2024年、1万3000社を超えるプラットフォーム企業が利用し、そのうち76社が約1500億円以上の決済を処理しました。多くの業界において事業のプラットフォーム化は2025年も継続して活発になると見られています。 また、今まで積み重ねてきた和食やアニメ・漫画などのソフトパワーに加え、日本人野球選手による米国での記録樹立や時代劇ドラマの世界的大ヒットなどで新たに日本への興味が高まっているほか、円安の影響もあり、訪日外国人累計数は3,00万人を超えて過去最高を記録しました。 インバウンド需要のみならず、旅行者の帰国後購入やリピート買いなど、日本製品への注目が再燃しています。この機会を利用して国際展開を試みる企業も増加しています。Stripeでは米国での会社設立支援や世界中で利用されている100種類以上の決済手段の提供、そして州や地域によっても変わる複雑な税務処理の自動化など、スタートアップから大手企業まで、効率的な事業拡大をお手伝いしています。 これからの決済 決済手段は各国の経済的および社会的基盤に深く根差しており、日常生活の至る所に影響を及ぼしています。例えば、クレジットカードの導入は、消費者の支出行動に根本的な変化をもたらし、信用情報機関やロイヤリティプログラムといった全く新しい産業を創出しました。 現在でも、世界中で決済手段の活発な変革が見られており、リアルタイム決済(RTP)をはじめ、後払い(BNPL)方式やステーブルコインなどの暗号資産(仮想通貨)の利用が拡大しています。これらの変革は、今後さまざまなビジネスに影響をもたらすと考えられており、日本においても、これから数年で急速な変化が訪れると見られています。 2025年は、企業規模に関わらずさらに幅広い業界における事業革新をサポートし、積極的に海外展開されている企業のお役に立てるよう邁進してまいります。Stripeは、ユーザーの皆さまと共に成長を続け、多様なニーズにお応えしていく所存です。 最後になりますが、皆さまのご健勝と貴社のますますのご発展を心よりお祈りいたします。本年も2024年同様よろしくお願い申し上げます。