失われつつある”諏訪の文化” 市内の共同浴場、今年4施設が廃止 長野県
今年、長野県諏訪市から温泉供給を受けていた市内の共同浴場(公衆浴場)4施設が廃止となった。浴場を運営する多くの組合では、人口減少や生活様式の変化などにより、組合員が減少。さらに、近年の物価高騰による設備の維持・更新費用の値上がりなどもあり、苦しい運営が続いている。歩いて近所の温泉へ―。諏訪市の日常風景が徐々に失われつつある。 ■集落人口減少、生活様式も変化 市水道局によると、市内の公衆浴場の契約数(1契約で複数の浴場を運営する場合も)は2004年の54件から年々減少し、現在は37件。給湯契約量は04年度が毎分1415リットル、23年度は978リットルだった。直近5年だけでも7件契約が減り、10施設が廃止された。いずれも組合員の減少が主な要因という。 このうち、双葉ヶ丘温泉組合が運営していた「遺跡の湯」(上諏訪)は、今年11月末で廃止(最終流量は16.2リットル)。今月18日から解体工事が始まった。同組合によると、遺跡の湯は1982年12月に開湯し、創設時の組合員数は92人(軒)。組合員は原則持ち家の人で、この他にアパート暮らしの非組合員も利用していた。 しかし、集落の人口減少に加え、家に風呂を設置する人も増えたため、徐々に利用者が減少。最後、組合員は22人だった。当初は役員が交代で浴場掃除をしていたが、負担が大きいため業者に委託。近年清掃業者の人件費が上がったことも廃止の要因の一つとなった。10月の臨時総会では、皆が浴場の存続を望んではいたが、採算性を考慮してやむなく廃止を決めた。 ■設備維持・更新費用の値上がり 市内の公衆浴場が消えていく中、受け皿となっている浴場もある。市内に現存する最古の共同浴場と言われている「平温泉」(小和田)。平温泉組合によると、組合員が減少する中で組合員確保のため、数年前から入会金を支払って回数券を買ってもらう仕組みに変更。入会対象は地元住民に限定せず、現在は市外の組合員もいる。 10年ほど前に一時組合員が150人(軒)を割ったが、現在は約200人(軒)まで戻った。その中に、以前は赤羽根町温泉(赤羽根、今年1月廃止)を利用していた人もいる。しかし、組合員は増えたが、高騰する設備更新費用、清掃や施錠を行う管理人の高齢化など、運営面の課題は少なくないという。 今月中旬のある日の午後3時すぎ、二葉高校前バス停近くの下り道に右手で杖をついてゆっくり歩く男性(85)の姿があった。左手には風呂桶。近くに住んでいて、15分かけて歩いて地区の共同浴場に行くのが日課という。 近年、近隣にあった共同浴場が次々と廃止となったことに「残念。新しく入ってきた人とかは共同浴場のコミュニティーに入りにくいのかな」と男性。「うちは家族で共同浴場を使っている。共同浴場は諏訪の一つの文化だよ」といい、「なんとか共同浴場の配湯温泉料くらい安くならないもんかね」とつぶやいた。