AI時代にこそ求められる人間のリアルな感覚 --子どもの非認知能力は外遊びで伸びる
為末:今後、私たちが「知的」だと思っていたもののほうがむしろAIに代替されやすくなって、より感覚的なもののほうが大事になるとしたら、ますます外遊びの重要性は高まるのではないかと。 窪田:同感ですね。人間の視覚が発達したのも、人にとって相手の表情をどのくらい読み取れるかが重要だったからなんです。視覚からの情報で、相手の精神状態を読み取り、どんなコミュニケーションをとればよいかが分かる。 そうしたやり取りを多く経験することで、コミュニケーション能力が高まっていきます。それにはやはり子どもの頃に、直接、人と接して感覚的なものを得ることが大事なんですよね。
■リアルと3D映像では、見る時の目のメカニズムが違う 為末:窪田先生に聞きたかったのですが、リアルと3D映像では、目にとって違いはありますか? 窪田:それは全然違いますね。例えば、目は遠くのものから近くのものを見る時に、ピント調整と同時に輻輳といって目の向きも変えます。簡単に言うと、近くのものを見るときに目が寄るということです。ところが3D映像では、映像が決まった距離に投影されているので、奥行きの異なる対象物を両目で1つに見るための輻輳が起こらないんです。
窪田:人間が立体に感じるのはある物体を右目で見た時と左目で見た時にそれぞれの目の網膜に投影される像が僅かにズレている(両眼視差)からです。この視差と目がどれだけ寄っているかという輻輳の感覚を統合して立体感を感じています。 しかし3D映像は、画面上では同じ距離にあるにもかかわらず、左右それぞれの目で別の映像をとらえることで立体的に見せる「視差」だけを利用して作られているので、自然な立体視とは異なるのです。
為末:かなり現実世界に近付いてきていると思っていましたが、人間の目のメカニズムで考えると、全然違うのですね。 窪田:はい。VR酔いやAR酔いが起こるのも、脳に負荷がかかっているからです。3D映像では、リアルな世界で物を見ているときの眼の動き(輻輳)までは再現できていないので、不自然なものとして脳が認知してしまう。これはどんなに技術が進化しても解決できない問題です。 為末:おもしろいです。 窪田:だから、どんなにVRの世界が現実に近付いたとしても、視覚的にはリアルに体験することの重要性は変わらないと考えられています。視覚によって立体感を認知する力は、体をコントロールする能力にも関わります。