32万部のベストセラー作家となった彬子女王殿下 英・オックスフォードでは「博士論文性胃炎に苦しみました」
父のひと言から、格安航空券で帰国
――初めての一人暮らしで困ったことはありましたか。 相談する人がいない、ということです。電車が遅れたときの連絡や切符の交換など、いままでは側衛や事務官がやってくれていたことを、全部自分で解決しなくてはいけません。あるとき、寮の部屋でバスタブのお湯があふれてしまって、お風呂場を水びたしにしてしまったことがありました。とりあえず蛇口をひねって水を止めた後、次にどうすればいいかわからなくて、「ああああ~」と言いながら部屋をぐるぐる歩き回っていました。パニックになると人間ってこんな行動をとるんだなと気づいた体験でした。 ――留学中にさまざまな経験をされたのですね。 交渉術も身につきました。私の住んでいた寮のキッチンが、大学側の事情でガスからIHヒーターに変わったことがあり、これまで使っていた調理道具が使えなくなったのです。全部買い直すとお金がかかると、大学に交渉したら共用のフライパンを買ってもらえました(笑)。日本から送金されてくるお金も、毎日為替レートを確認して、少しでも円高になったタイミングで「いまお願いします!」って。 ――飛行機は格安航空会社(LCC)なども使っていらっしゃったのですね。 留学費用を出してくださったのは父(故寬仁親王)ですから、収支報告をするのです。あるとき、「飛行機代が高い。そもそもなぜおまえはこんなに頻繁に帰ってくるのか」と叱られました。私は日本美術が専門ですから、日本で史料調査が必要だとお話しして。次の帰国からは、インターネットで調べて、安い航空券を購入するようにしました。すると今度は「なんでこんなに安いんだ?」と言われたので、「やり方はいろいろあります」と(笑)。
授業で「爪痕を残す」
――留学の初年度は、英語でご苦労されたようですね。 日本人だらけの語学学校ではそれなりに通じていたのに、英語を母国語とする方々の中では話の半分も理解できないのです。私が何か言っても、「違うんだけど」「ま、いいや」という反応になってしまう。それで、どんどん話せなくなりました。 ――どのように乗り越えたのですか。 「習うより慣れろ」です。わからなくても話すしかありません。単語の羅列でも「とにかく伝えたい」という意思を持って話すと、相手は一所懸懸命考えて「こういうこと?」と言い直してくれます。そうすると、その言葉や表現を覚えるんです。英語の文章を読んでいるときに出てきたわからない単語を辞書で引いて、「ああ、こういう意味ね」となんとなく理解した単語は、するっと忘れてしまいがちです。でも、会話の中でつかんだ言葉は忘れません。英語は、英語の中で学ぶと身につくのだと実感しました。 ――大学院では英語で同級生と議論するなど、さらに大変だったのではないでしょうか。 同級生と同じような議論を交わすことはできません。でも、何か爪痕を残したいと思って、1つの授業で1回は発言しようと決めて、発言しました。すると「アキコが何か言うみたいだよ」という空気になって、聞いてもらえるようになりました。遠慮していると「この人は意見を言わない人」と思われて終わりです。何か一つでも引っかかるものを残そうと必死でした。