【スープストックトーキョー工藤萌さん】取締役社長の働き方と育児のバランスは?
出産後も働き続ける人が約7割と言われる今。現在、5歳の娘さんを育てながら、株式会社スープストックトーキョーの取締役社長を務める工藤萌さんにインタビュー。出産を機に価値観が変わりキャリアチェンジを決断したというエピソードやから、育児と仕事の両立の秘訣、今後のビジョンまで語ってくれました。 【画像】社会学者が解説!結婚・出産・育児にまつわるニュースワード
株式会社スープストックトーキョー 取締役社長 工藤萌さんの働き方と育児のバランス
(会食がない日のスケジュール) 4:30…起床 読書や運動、仕事など 6:30…子どもの勉強を見る 7:00…朝食 8:00…保育園へ送る 9:00…出社し会議に出席 12:00…ランチ 12:30…引き続き会議に出席 17:30…退社し保育園のお迎え 18:00…夕食づくり 19:00…夕食、お風呂など 21:00…子どもが就寝 22:00…就寝 「出産してから一層、効率主義になり、家事をしながら目では字幕つきの韓国ドラマを見て、耳ではビジネス番組を聞いています(笑)。夫も私も実家が県外のため、どうしても困ったときにだけシッターサービスを依頼。カジュアルな会食や懇親会には、相談した上で、娘を連れて行くこともあります」
【インタビュー】工藤萌さんのキャリアと子育て両立の秘訣&今後のビジョン
■社会をよりよくするために働きたい。出産して、仕事への意識が変わりました 「私、仕事が大好きなんです。仕事をしている時間が自分の時間という感覚で。家事中に韓国ドラマを見ているときも、『今の女性たちはこういう作品にときめくのか!』と、ついマーケティング視点で俯瞰してしまいます(笑)」 そう語る工藤さんが第一子を妊娠したのは、資生堂でグローバルブランドマネージャーを務めていた36歳のとき。まさに“働き盛り”と言われる年齢だ。 「昔から漠然と“いつかは子どもが欲しい”と思っていて。34歳で今の夫と結婚し、そのあとすぐ妊娠、出産を経験しました。女性が多い職場にいたので出産がキャリアの妨げになるという心配はなかったですね。本来誰もが不安に感じるべきではないし、女性が自由に生き方を選択できる社会をつくることは経営者としての課題のひとつです」 ■平日の夜は曜日ごとに夫とワンオペ育児を分担。夫婦の会話は朝食時に 昨年8月に、取締役としてスープストックトーキョーに入社した工藤さん。キャリアチェンジのきっかけは、出産による価値観の変化だった。 「出産するまでは30年後の未来なんて想像したことがなかった。でも、子どもが大人になったときの世界を考えるようになったんです。世間の意識や行動を変える力を持っているマーケティングの意義を改めて実感し、そのスキルを社会をよくするために使いたい、と考えるようになりました」 そんな思いから、育休後すぐに次世代燃料の開発・製造に取り組むユーグレナへ転職。カンパニー長に就任し経営を学ぶ中、スープストックトーキョーの現副社長から依頼されて同社の顧問に。翌月、母親としての心を揺さぶられる出来事が起きた。 「スープストックの店舗で離乳食を無償提供することを発表したところ、賛否両論が巻き起こり、SNSで多くの意見をいただきました。私自身、子連れで外出や外食をするときは常に周りに迷惑をかけないよう意識していたこともあり……“母親にとっての社会の居場所”を深く考えさせられて。社員たちと声明を書き上げる中で、『スープを通じて世の中の体温をあげる』という社の理念に胸を打たれ、ここで頑張りたい!と直感し、転職を決意しました」 ■出産・育児の経験はMBA留学ぐらい価値がある その後、4月に社長に就任し、まもなく第二子を妊娠。「ギリギリまで働くつもりです。楽しいので!」とふっくらとしたお腹をなでながら笑顔を浮かべる。 「ありがたいことに、夫は私の仕事に対する熱意をよく理解し、尊重してくれています。彼も経営者なので、お互いに会食が多い平日の夜は、交代でワンオペ育児をしています。スケジュール調整の手間を省くために、ワンオペ担当日を曜日で振り分けてルーティン化。ルールづくりなどの話し合いも定期的にしています。夫は子どもの教育に関しては私以上に熱心で、話し合いのときは、まるでプレゼンのような立派な資料を準備してくるんですよ(笑)」 “自分で考えられる子になってほしい”という思いから、夫の提案で「家訓」を作成。紙芝居にまとめ、娘さんの5歳の誕生日に披露したそう。 「10個以上あって、私も全部は覚えていないんですが(笑)。最も効果を実感しているのは、“自分のことは自分でやる”。困っているときや悩んでいるときにも、解決策を教えるのではなく、『どうしたの? 何をしてほしいの?』と聞いて、自分で考えさせるようにしています。まだ感情的になってしまうことはありますが、徐々に自分で対処できるようになってきたかな」 ■経営者としての目標は、自分らしい働き方を開拓できる仕組みづくり 夜は気絶するように寝落ちしてしまう忙しい日々を送りながらも、育児を苦痛に感じたことは一度もないと断言。 「毎朝、子どもにハグをするたびに幸せを実感しています。私は出産で失ったものよりも、得られたもののほうが圧倒的に多いから。出産していなければ、今、ここにいませんし。新しい価値観や視点を仕事に生かせるという意味でも、出産や育児ってMBA留学と同じくらい価値があるものだと思います!」 そんな自身の経験を社内制度に還元することが、今後の目標のひとつに。 「近年は働き方の価値観が大きく変わり、一律的な制度は限界を迎えていると感じます。子どもがいてもガッツリ働きたい人、しっかり子どもと向き合いたい人、子どもを持たない人……皆が自分らしく働ける方法を自分で開拓できる仕組みをつくるのが今の目標。それが広がっていき、より自由に生きられる社会に変わっていけば素敵ですよね」 株式会社スープストックトーキョー 取締役社長 工藤 萌 くどう もえ●新卒で資生堂へ入社。営業を経てマーケティングに従事する。第一子出産後、2019年にユーグレナへ転職し、マーケティング部門の立ち上げや執行役員を歴任。2023年8月に株式会社スープストックトーキョーの取締役に就任し、24年4月に取締役社長に。 撮影/nae. 取材・原文/中西彩乃 ※BAILA2024年8・9月合併号掲載