“東大生ホンダ育成ドライバー”……異色すぎる肩書きを可能にしたものとは。新原光太郎の目標は「角田裕毅さんを超えるドライバーになる」
「次席という結果をもらった時は、嬉しさより悔しさの方が強かったです。ただスカラシップをいただけたというのは、チャンスをもらえたということ。ここからの結果次第では、首席の凛太郎くんよりも上のキャリアを積むことだってできると思いますから、今は悔しさよりも頑張ろうという気持ちが大きいですね」 先日、ホンダ・レーシング(HRC)が2025年のモータースポーツ計画を発表。ホンダ・レーシングスクール(HRS)鈴鹿で首席となった佐藤凛太郎はフランスF4に、次席となった新原光太郎は日本のFIA F4に参戦することになった。新原は冒頭のコメントにもあるように、悔しさをモチベーションに変換し、心に炎を灯していた。 全日本カート時代は高木虎之介監督率いるトヨタ系チームから参戦していたという縁もあり、当初はトヨタ育成入りを目指していた新原。その中で2021年からはFIA F4への参戦もスタートした。ただトヨタのスカラシップは得られず、2022年はZAP SPEEDからF4を戦い腕を磨くと、同年の暮れからHRSの受講をスタートした。 2023年は最終選考会まで残ったが、惜しくもスカラシップ獲得はならず。2024年は2度目の挑戦で、次席を勝ち取った。 新原曰く、スカラシップを逃した前回と比べると特にメンタル面での成長を実感したという。HRSで学べるのは、ドライビングの面だけではないのだ。 「去年は初めてスクールを受けるということで、結構緊張しながら探り探りでした。ただ今年は去年の経験がある分、ダメなところはある程度直した状態で微調整する感じでした。ドライビング的にも大雑把なところがどんどん丁寧になりましたが、それよりもメンタルの持ちようが1番変わったんじゃないかなと思います」 「スクールではもちろん走り方も教えてくださるのですが、走っている最中に何を考えるだとか、予選アタック中のメンタルの持ちようだとか、そういったことも教えてくださります」 「例えば前回スカラシップ選考会に進んだ時は、(個体差的に)良くないクルマに当たってしまった時があって。そこでは下位に沈んで上に戻って来れなかった時があり、それが順位を決める点数計算に響いてしまいました。そこに関しては、もちろんドライビングも足らない部分はいっぱいあるんですけど、メンタル面の方が足らないところが多かったと思います」 「(2度目の選考会は)精神的に落ち着いて走れるのはもちろんですし、逆に良いクルマに当たった時も、例えば予選のアタックで前半区間がうまくいっている中で、後半区間でもっと稼ぎたいと思って焦ったりとか、逆に安パイに置きにいこうだとか、そういった余計な考えがなくなり、ミスが少なくなりましたね」 2024年シーズンはHRSと並行して、Hydrangea Kageyama RacingからFIA F4に参戦した新原だが、そこでも成長の跡を見せた。このカテゴリーはホンダ育成チームのHFDPとトヨタ育成チームのTGR-DC RSが高い戦闘力を見せ、シリーズの主役となるのが常だが、新原は開幕戦からポールポジションを獲得し、終盤戦はコンスタントに表彰台を獲得して初優勝も記録。ホンダ育成のふたりに続くランキング3位でシーズンを終えた。これについて新原は、今季から車両が新しくなったことで、各チームのデータ量が少ないことも影響しているのではないかと語った。 そして新原が他のドライバーを一線を画しているのが、レース活動の傍らで東京大学に在学しているということだ。東大は言わずと知れた、国内最高峰、最難関の大学。新原は現在2年生である。 新原は東京大学の“理科1類”に進学したが、「ここでは一般教養しかやらないんです。専門の科目が始まるのは2年の後期くらいからで、その段階で自分の入る学部を決めるんです」と説明する。そして彼は、理系の学部ではなく、文系の経済学部に進学することにしたという。その理由は……? 「理学部、工学部だと実験があったりして忙しいということもあります。あとは父が経営者なこともあり、僕は昔から、経済、経済学に興味がありました。マクロ経済、ミクロ経済、そういったものを勉強するために、経済学部に進学する予定です」 「父が経営者だったおかげで、これまで資金的な援助をしてもらえたということもありましたから。今年は自分も成人ですし、(レース活動は)スポンサーさんのお金がメインで、残りのお金は父からの支援は受けずに自分で払っているのですが、やっぱりネックになるのが資金だなと感じています。それで経済学部に行きたいという気持ちも強くなりましたね」 若手ドライバーとしてのあどけなさを残しながらも、話の端々から聡明な雰囲気を醸し出していた新原。「得意、と言えるかはわかりませんが、他の人よりデータ分析が好きだと思います。ロガーやオンボードを見るのが好きで、ずっとやっていられるなと思います」と東大生らしい一面も見せた。 ちなみに新原は兵庫県出身。言葉のイントネーションから漂う関西弁の香りに、素朴な疑問が浮かんだ。「なぜ京大ではなく、東大を選んだのか?」 「正直言うと……なんとなくなんですけど(苦笑)」 「どうして京大ではなく東大を選んだかと言われると、日本で一番とよく言われるのが東大だからですかね」 「勉強もやっている最中は面白くないですけど、レースと一緒でしっかり順位がつきますよね。僕は負けたくないという気持ちがあって頑張りました」 「レースはクルマの個体差だったり、エンジニアの方の能力差だったり、自分のドライビング技術以外にも多くの要素があって、正直言い訳はいっぱいできてしまいます。でも勉強は自分が勉強したかしてないかが結果に反映されるので、そこで負けると『もう少しやろう』という負けず嫌いが出てくるのかもしれないです」 負けず嫌いが極まると、究極の文武両道に繋がる……ということか。最後に改めて、今後のレーシングドライバーとしての目標を尋ねると、こう力強く語った。 「最終的な目標としては、ホンダさんを代表するようなドライバーになることです。今は角田裕毅さんがいらっしゃいますが、世界に通用するような実力と結果で、角田さんを超えるようなドライバーになれたら、というのが目標です」
戎井健一郎