「次の世代が運動の継承を」日本被団協、ノーベル平和賞受賞演説 「核のタブー」弱体化に危機感
今年のノーベル賞平和賞の授賞式が10日、ノルウェーのオスロ市庁舎で開かれ、受賞者の日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)を代表して田中熙巳(てるみ)代表委員(92)がスピーチを行った。田中さんは、核兵器はかつてよりもはるかに強力になっており、若者たちは核兵器のない世界を目指して戦いを引き継ぐべきだと語った。 授賞式を前に田中さんはロイターとのインタビューに応じ、今回の受賞は核兵器廃絶を世界に訴える絶好の機会ととらえていると語った。 日本原水爆被害者団体協議会 代表委員 田中熙巳さん 「(被団協の結成以来)ずっと核兵器というのは人道に反する兵器なので地球上に存在してはいけない。使ってはいけないのはもちろんですけれども、存在させてもいけないということを訴えてきたけれども、それが実現しないまま今なお1万2000発が存在するし、しかもすぐ発射できるのが3000発以上あるという状況には耐えがたいものがある。ですからその訴えが今回の受賞で世界の人々にわかってもらえるという、すごいいいチャンスだと思っております」 被爆者は高齢化が進んでおり、平均年齢は85歳。授賞式に出席したノルウェーのハーラル5世国王やソニア王妃を前に、田中さんは次のように述べた。 「10年先には直接の被爆体験者としての証言ができるのは、数人になるかもしれません。これからは私たちがやってきた運動を次の世代の皆さんが工夫して築いていくことを期待しております」 田中さんは「核兵器を使用することが許されない」という世界的な基準、いわゆる「核のタブー」形成に、日本被団協が重要な役割を果たしてきたと述べた。しかしその基準が弱まりつつあることに懸念を示した。 「パレスチナ自治区ガザ地区に対しイスラエルが執拗に攻撃を加える中で核兵器の使用を口にする閣僚が現れるなど、市民の犠牲に加えて『核のタブー』が壊されようとしていることに限りない悔しさと憤りを覚えます」 田中さんは、ウクライナやガザで続く戦争の中で核兵器使用の脅威が示されたことを指摘。また世界中で約4000発もの核弾頭が即時発射可能な状態にあることを警告した。 「広島や長崎で起こったことの数百倍、数千倍の被害が直ちに現出することがあるということ。みなさんがいつ被害者になってもおかしくない、あるいは加害者になるかもしれないという状況がございます。ですから、核兵器をなくしていくためにどうしたらいいか、世界中のみなさんで共に話し合い、求めていただきたいと思うのです」 壇上には田中さんに加え、日本被団協の代表委員である田中重光さん(84)、箕牧智之さん(82)も登壇した。 1945年8月6日と8月9日に広島と長崎に投下された原爆による犠牲者は、推計21万人に上る。田中さんは13歳の時に、爆心地から約3キロ離れた長崎の自宅で被爆。ほぼ無傷だったものの親族5人を失った。 授賞式の後、オスロ市内では日本被団協の受賞をたたえトーチライトパレードが行われた。受賞者の3人も晩さん会会場のグランドホテルのバルコニーから手を振って、パレードの参加者に応えていた。 *本文と字幕の一部表記を修正して再送します。