「給料も仕事のモチベも上がらない」お金とやりがいの狭間に揺れる会社員の悩みに名越康文が喝!
仕事内容や過去の実績から、自分の市場価値を客観的に評価してくれる、指標のようなものは絶対に必要だと思います。 それでも、自分を売り込んだり、会社に対して自分の処遇を見直してほしいなどとお願いしたりすることにかなりの抵抗感や嫌悪感があるとしたら、何かしらのトラウマが影響を与えている場合があります。 トラウマの場合、臨床的には10歳以下くらいの幼少期の体験が社会的活動や対人関係に影響を及ぼすケースが多いのです。子どもの頃に寂しい思いをしたとか、嫌な思いをしたといった抑圧された体験がないか思い出してみても良いのです。 そしてたとえば、「今の自分とその時の自分は違うよね。今は大人になっているからなんでも自分で決めて良いのだよ」と、静かに自分自身に言って聞かせてあげる。これだけで、心の傷が癒されて次へ踏み出せることがあります。 無意識のうちに自分の行動を阻んでいる小さな心の棘を摘んであげることで、気が楽になるという経験は僕自身にもありました。 僕はこれまで、監修を含めて30冊以上の著作を発表しています。ですが、自分が出演する動画の中などで「こんな本を出しました、読んでください」と、宣伝することに抵抗があり上手くできなかったんです。 ところが、初めて自分の名前ではなく「精神科医N」というペンネームで本を出したら、「これはいい本ですよ」と言えたんです。
人間はちょっとした心の機微の変化で、意外にパッと心が明るくなったりこだわりが無くなったりもします。 この方は会社に愛着を持っていらっしゃるとのことですから、転職という選択肢は今のところ持っておられないのでしょう。 でも、「万が一転職するとしたら、自分の実績を人にどう伝えるだろうか」という視点で、経歴を振り返ってみるのも一案です。 そこでちょっと自分に自信が持てるきっかけになることもあるし、もしかしたら転職しようという気持ちが一年後に湧いてくるかもしれない。 どちらにせよ、自分がこれまでどんな仕事をしてきたのかということを、客観的に一度きちんと書き出してみることは、将来に向けてプラスになることもあるんじゃないかなと思います。
もしも、どうしても抵抗があるという場合は、自分をよく知る友人とお互いに相手の実績を5個でも10個でも書き出してみるのもひとつの方法です。その際は、相手が書いてくれた内容を否定しないことを条件にしましょう。 せっかく自分のために書いてくれたのだから、「ありがとう」と感謝しながら一つひとつ読み上げ、友人とのセッションを楽しんでみてください。 明日からのモチベーションアップにつながる、きっかけになるかもしれませんよ。 達 弥生=取材・文 アントレース=編集
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