子どもの自殺、2年連続500人超の“異常事態”…識者「支援が不足している」
警察庁統計と文科省調査「差異」のナゾ
そんな中で、国が「こどもの自殺」について白書で大きく取り上げたこと自体は評価できる。一方、白書の基となっている警察庁統計と、文科省の「問題行動・不登校等調査」の差は気になるところだ。 文科省調査は年度ごとの統計であり、警察庁統計は年ごとの統計であるため、元よりズレが生じることは仕方ない。しかし、白書で昨年度の小中高生の自殺者数は513人。一方、文科省調査では397人で、その差は116人にも上る。 なぜ、100人を超える大きな差が生じるのか。 そもそも文科省調査は、学校が認知した自殺を集計する。学校は生徒の自殺を認知した場合、原則として文科省が策定した「子供の自殺が起きたときの背景調査の指針」に基づき、「基本調査」を行い文科省に報告する。 警察庁統計と文科省統計の差が大きいということは、学校による「基本調査」さえ行われていない、ともすれば学校は認知すらしていないこどもの自殺者がいるかもしれないということだ。これでは、実態にあっていない自殺対策が実行されかねない。
原因改善のため実態把握したいが…
自殺対策のための実態把握という意味では、「自殺した児童生徒が置かれていた状況」の調査も重要だ。 「自殺した児童生徒が置かれていた状況」についてはここ数年、自殺の原因を推察できない「不明」数が60%前後で推移していたが、昨年度は46.9%で「不明」数が減った。 分析する上で、重要な成果があったかのように見えるが、それでも「不明」は186人で、先に「基本調査」が行われていない可能性を指摘した警察庁統計との差分を合わせれば300人を超える。 学校現場で、生徒の自殺原因が“事実上”不明である率は依然として高いままだと言えるだろう。 「不明」は減ったが、それでも全体の46.9%を占める(令和5年度「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要より※一部編集部で加工)
実態に即した統計結果も
ただ、調査が実態に近づいたと感じられる統計結果もある。 もともと夏休み明けは、児童生徒の自殺が増えると言われていたが、8月末から9月初めの自殺者数について、全国と「北海道・東北」を比較したところ、「北海道・東北」では8月20日前後にピークを迎えていた。 全国平均よりも10日ほど早いピークだが、「北海道・東北」地域では夏休みが全国より早く終わるのだ。 ここからもわかる通り、こどもの自殺対策は、地域や学校それぞれの予定を踏まえ、実態を把握し、要因を分析した上で行うことが効果的なのではないだろうか。 ■渋井哲也 栃木県生まれ。長野日報の記者を経て、フリーに。主な取材分野は、子ども・若者の生きづらさ。自殺、自傷行為、依存症、少年事件。教育問題など。
渋井哲也