実話を基にした“泣ける洋画”の傑作は? 珠玉の名品(2)心が晴れやかになる…心優しき泥棒の壮大な計画とは?
世の中には、自分には決して真似できないと思うような苦しい戦いを乗り越えてきた先人たちが存在する。今回は、実話を基にした、心が温まる洋画を5本セレクト。世界各国で、仕事や病、時には国家や迫害者とひたむきに戦った人々の真実を描いた作品をご紹介する。第2回。(文・阿部早苗)
『ゴヤの名画と優しい泥棒』(2020)
上映時間:95分 原題:The Duke 製作国:イギリス 監督:ロジャー・ミッシェル 脚本:クライブ・コールマン キャスト:ジム・ブロードベント、ヘレン・ミレン、フィオン・ホワイトヘッド、アンナ・マックスウェル・マーティン、マシュー・グード、ジャック・バンデイラ 【作品内容】 1960年代のイギリス。ロンドン・ナショナル・ギャラリーからゴヤの名画「ウェリントン公爵」が盗まれる。公共放送の無料化を訴えるケンプトンは、絵画の身代金で高齢者の受信料を肩代わりしようと計画する。 【注目ポイント】 監督を務めたロジャー・ミッシェルは過去に『ノッティングヒルの恋人』(1999)を手がけた監督でもある。また、2021年9月に死去。本作は監督にとって遺作となった作品だ。 主人公のケンプトン・バントンを演じるのは、これまで多くの大作に出演してきたイギリスの名俳優ジム・ブロードベント。ケンプトンの妻をヘレン・ミレンが演じており、キャスティングは全てイギリス出身の俳優陣を起用している。 貧困の高齢者を助けるため公共放送(BBCテレビ)の受信許可料の無料化を訴えていたケンプトンは、イギリス政府がゴヤの名画「ウェリントン公爵」を14万ポンドで落札したことを知り、憤る。 やがて逮捕された彼は法廷で無罪を主張。法廷では様々な質問に答えていき自身の過酷な生い立ちにユーモアを加えながら説明。傍聴者の賛同を得ていく。 ケンプトンは、政府の絵画落札を税金の無駄と感じ、14万ポンドのお金があれば10%という利息だけでも貧困にあえぐ沢山の高齢者を救うことができると思ったのだった。絵画を盗んだ息子をかばい、絵画の身代金を使って高齢者世帯の受信料にあてようと企てた彼の優しさは感慨深い。 ちなみに、2000年、BBCテレビは75歳以上の受信料の無料化を実現させた。 日本も某放送局の受信料をめぐる問題が世間を騒がせている。社会から切り離された高齢者の孤立などの問題は現代社会でも大きな課題といえるだろう。 実際のケンプトン・バントンさんは、BBCテレビの受信料支払いに応じず2度、刑務所に入っているそう。心優しき泥棒の法廷で繰り広げられる対話劇は必見だ。 (文・阿部早苗)
阿部早苗