「日本の農業は過保護」という噓
貿易自由化の「生贄」にされてきた農業
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日本は、経済産業省などの主導のもと、長年にわたって自動車の輸出を推進してきた。そうして製造業で儲けるかわりに、自由貿易交渉においては、いわば「生贄」として農産物の関税撤廃を差し出す、という経済政策を進めてきた。「食料なんて金を出せば買える」という考え方が、あたかも正論のごとく唱えられた結果、日本国内での農業生産はないがしろにされてきた。 近年、むしろそうした構図が強まっている。各省庁間のパワー・バランスが完全に崩れ、農林水産省の力が削がれる一方、経産省が官邸を掌握した第2次安倍晋三政権時の2018年9月27日、日米貿易交渉の構図について筆者は某紙に次のように書いた。「今は“経産省政権”ですから自分たちが所管する自動車(天下り先)の25%の追加関税や輸出数量制限は絶対に阻止したい。代わりに農業が犠牲になるのです」。こうした構造は内閣が交代しても継続している。 ある意味、この政策は狙い通りの効果をあげているとも言える。政府が使っている計量モデルを筆者の研究室で再現し、貿易自由化による自動車の利益と農業の損失を計算してみた。すると、TPP(環太平洋連携協定)やRCEP(東アジア地域の包括的経済連携)などの大きな貿易自由協定を一つ決めるごとに、自動車産業は約3兆円儲かり、農業は約6000億~1兆数千億円もの損失に見舞われていた。まさに農業を「生贄」にして自動車が儲かる構造があることが見事に示されたのである(表1参照)。
本文:4,216文字
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鈴木宣弘