亡くなったノーベル文学賞詩人を「復活」させたポーランドのラジオ局に批判殺到、何がマズかったのか?
■ リスナー数「ほぼゼロ」のラジオ局の蛮勇 Off Radio Krakówは対話型AIであるChatGPT、ElevenLabsの音声AI、Leonardo.AIの画像生成AIを活用してこれらのパーソナリティをつくり上げ、実際に彼らに番組を担当させたのである。 ただ同局のリリースによれば、すべてのコンテンツをAIが生成したのではなく、原稿はAIを活用した人間のジャーナリストが用意したとのこと。生成された原稿を人間がチェックした上で、音声への変換が行われ、それをラジオ番組として放送したという。 Off Radio Krakówがこのように大胆な策に打って出たのは、リスナー数の低迷に悩んでいたことがきっかけだった。 ニューヨークタイムズ紙の記事によれば、同局のリスナーは「ほぼゼロ」という状態で、いずれにしても何らかのテコ入れをしなければならなかった。そこで目を付けたのがAIパーソナリティだった。 実際にこの策は大きな注目を集め、リスナー数も一晩で8000人にまで増加したそうだ。 ただ、当然のことながら、この決定は関係者全員から歓迎されたわけではなかった。同局が解雇したジャーナリストの1人、マテウシュ・デムスキは「従業員をAIに置き換えること」に抗議する請願書を発表。AP通信の記事によれば、この書簡に対し、1日で1万5000人以上の賛同者が署名したという(ちなみに、この原稿を執筆している時点で、署名者の数は2万4000人を超えている)。 またリスナーたちからも、このような「実験」の対象になりたくないという抗議の電話がデムスキのもとに寄せられたそうだ。 そして、何より物議をかもしたのが、AIによる故人の復活だった。
■ AIレポーターがAIでよみがえった詩人をインタビュー Off Radio Krakówは単にパーソナリティをAIに置き換えるだけでなく、さまざまな実験的コンテンツの制作に取り組んだ。そのひとつが、ノーベル文学賞受賞者のヴィスワヴァ・シンボルスカへのインタビューである。 シンボルスカはポーランドの詩人で、ノーベル文学賞を1996年に受賞するなど、ポーランドの文学界を代表する人物。しかし2012年に亡くなっており、当然ながらいまから新しいインタビューを収録できるはずがない。 そこでOff Radio Krakówは、AIパーソナリティをつくり出したのと同じ技術を使って、シンボルスカのデジタル・レザレクションに取り組み、前述の「エミリア」が彼女に問いかけるという、登場人物がどちらもAIという前代未聞のインタビュー番組をつくり上げた。 残念ながら現時点で、この音声は公式サイトでは提供されていないが(ポーランドのテレビ局がこの一件について報じたニュースの中で、一部を確認することができる)、インタビュー内容をテキスト化した記事が公開されている。 それによると、シンボルスカは2024年に韓国の小説家ハン・ガンがノーベル文学賞を受賞したことについて、「ハン・ガンは間違いなく当然の勝者でしょう。私は彼女の散文を知っていますし、身体、痛み、人間と周囲の世界との関係についての彼女の書き方が好きです」と語っている。 また「私は村上春樹のファン」であると述べ、「彼が評価されるのも時間の問題」だとしている。 念のために解説しておくと、この「復活」が関係者に黙って行われたわけではない。 前述のニューヨークタイムズ紙の記事によれば、シンボルスカの文学的遺産を管理する財団の代表を務めるミハウ・ルシネックは、「彼女にはユーモアのセンスがあり、この取り組みを面白いと感じるだろう」として、AIによるコンテンツ生成を許可している。デジタル・レザレクションに必要なデジタルデータも、すべて許可を得て使用されたものだ。 しかしこのインタビューが公開されると、各所からさまざまな反発が巻き起こった。