さいたま市高齢者福祉施設廃止 方針撤回の願い届かず 補償開始も不安と怒り
埼玉県さいたま市議会6月定例会で廃止が決まった高齢者福祉複合施設「グリーンヒルうらわ」(緑区馬場)。9月定例会ではケアハウス(軽費老人ホーム)「ぎんもくせい」入所者への転所補償金を盛り込んだ本年度一般会計補正予算案が可決された。市は説明会を3回実施。これまでに転所し、補償を受けた人もいる。ただ、ぎんもくせいに入所している80代女性は「力が抜けてしまった」と一日も心が晴れることはないと明かす。女性は市内のケアハウスに申し込んでいるが、順番待ちの状態で「いつ決まるか分からない」と強い不安を口にする。 ケアハウス「ぎんもくせい」【写真2枚】
市高齢福祉課によると、グリーンヒルうらわは1993年5月に開設された。市立病院の隣接地にぎんもくせいと介護老人保健施設「きんもくせい」を一体的に建設。目の前には見沼田んぼが広がり、周りを木々の緑に囲まれる落ち着いた雰囲気の中、身近で安心できる施設として、多くの市民から親しまれてきた。 市からの廃止方針が利用者や家族に示されたのは今年2月。ぎんもくせいの入所者や「きんもくせい・ぎんもくせい」を守る有志の会が、施設の廃止撤回と存続を求める要望書や署名を清水勇人市長宛てに提出した。願いは届かず、市議会6月定例会で施設の老朽化に伴う修繕や維持管理に課題が生じていることを主な理由に、ぎんもくせいは2030年3月、きんもくせいは来年3月の廃止が決まった。 市は9月定例会に、ぎんもくせい入所者の引っ越し代や転所先選定に必要な交通費、入所一時金など1人当たり総額364万3千円の補償金を計上。10月の会期末に可決後、10月30日、11月1、2日の計3日間、同課の職員が施設を訪れ、入所者や保証人の親族らに補償金の内容や交付までの流れなどを説明した。具体的な転所先の提案は、施設の指定管理者の市社会福祉事業団の担当者が場所や金額面など入所者や家族の意向に沿って、支援を行っている。
市内に住む50代の娘と市の説明を聞いたという80代女性は「70、80、90歳の老人を突然放り出す市をそもそも信用できない。質問する気も起きなかった」と打ち明ける。これまでに存続運動などにも参加。「やるだけのことはやったから仕方ないかなという感じで、力が抜けてしまった」と悲しげな表情を浮かべる。医療施設と介護施設を併設する市内のケアハウスに申し込みをしているが、空きがなく順番待ちだという。「いつ決まるのかな。いろいろ考えると不安でね。夜中に目が覚めてしまう」と心は晴れない。 同課によると、12月23日現在、ぎんもくせいの入所者は59人。うち3人は転所先が決まっている。補正予算成立後には3人が転所した。来年3月で廃止のきんもくせいの入所者は同日時点0人。グリーンヒルうらわのデイサービス契約者は9人いるという。有志の会代表を務め認知症の妻(71)を介護している内藤正弘さん(78)もその一人で受け入れ先を探している。