両腕で歩くミャンマーの牧師と合気道開祖の「最後の内弟子」 Vol.31
まさに「地獄」の様相を呈している――2021年に発生した軍部によるクーデター以降、ミャンマーでは軍事政権の国軍(ミャンマー軍)と、軍事組織としてのKNLAを有するKNU(カレン民族同盟)やカチン州、シャン州、カヤ州などの武装勢力が組織した反政府(反軍事政権)の連合的武装組織PDFの戦闘が激化している。今年に入り、軍事政権はついに18歳以上の国民を徴兵するとまで発表した。 2024年現在、ミャンマーに向けられる視線は「反民主的な軍事政権VS民主化を求めるレジスタンス的武装勢力」の構図一色に塗りつぶされているが、はたしてクーデターが発生する前のミャンマー、そのディテールに目を向けていた者がどれほどいただろうか。 本連載は、今では顧みられることもなくなったいくつかの出来事と、ふたつの腕で身体を引きずるように歩くカレン族の牧師を支えた日本人武道家を紹介するささやかな記録である。
モンゴル大統領の来訪
2004年4月にモンゴル首相がデンバーを訪れた。米国主要都市との親善交流のための訪米であり、デンバーはウランバートルと姉妹都市の関係があったため来訪したのである。デンバーに着いた首相はモンゴルコミュニティの長老から本間の話を聞いた。 「デンバーには日本館総本部という合気道道場があり、そこの館長の本間先生から私たちは大変お世話になっています。日本庭園付きの大きなレストランがあり、そこで毎年、私たちのために「モンゴル懇親カラオケ大会」を催してくれています。コロラドに住む私達にとっては、年に1度のお祭りのようなものです。そんなことをしてくれる人は他にはいません。私たちは有難くて、有難くて……」 本間から話を聞いた山本が調べたところ、モンゴルの長老は涙ながらに首相に語ったそうだ。異境の地で、我が同胞の老人たちがかように世話になっている日本人がいるのであれば、ぜひとも挨拶に行かねばならない。そんな次第で、モンゴル首相一行が日本館に来訪することとなったのである。 本間は思わぬ展開に驚いたが、日本は歴史的にもモンゴルとは深い関係にある。植芝開祖が若い頃、大陸雄飛を夢見て憧れた国でもある。そんな思いを抱きながら首相一行を鄭重に出迎えた。 ところが同年7月に、今度はモンゴル大統領がデンバーにやってきた。ワシントンでのブッシュ大統領との会談後、モンゴル最高位ラマ僧チョイザムズ・デンブレル師、国防長官、外務大臣など総勢20名余の要人を引き連れて大統領がデンバーにやってきた。そしてまた日本館を訪問したのである。 4月に訪問した首相からの報告で、本間のことが話題になったとも推察せられるが、その当時、要人警護SPに本間が合気道を指導し、また軍幹部や政府高官にも本間の弟子がいた関係もあり、大統領が本間に関心を持ち、日本館を訪ねてくることになったようだ。