日本車メーカーはトヨタだけが生き残る…トランプ氏の「EV嫌い政策」で豊田章男会長の"予言"が注目されるワケ
■サンクコストの落とし穴にはまってはいけない すでに使った費用・資源・時間に対して「もったいない」という心理が働き、合理的な判断ができなくなってしまう状況を「サンクコスト(埋没費用)の誤謬」と呼ぶ。 メーカー各社やEV生産地の政治家たちが「EV普及政策を継続してほしい」と次期政権に願い出ているこの状況は「サンクコストの罠にはまっている」と言わざるを得ない。 たとえこの先、EVの航続距離が伸び、充電施設の数が増え、価格が下がったとしても、近い将来に一般消費者が「EVはガソリン車よりも安くて便利だ」と感じる環境が実現するとは考えにくい。そもそもEVがよいモノなら、ユーザーは補助金がなくても飛びつくはずだ。 ■「環境保護よりも目の前の生活」が有権者のホンネ 気候変動対策としてのEV普及のコスパや効果についても疑問が多い。 トランプ氏再選に見られるように、大多数の有権者は、「環境保護よりも目の前の生活における苦境の改善」を求めている。トランプ次期大統領はそれに応える形で、数十兆円分ものEV補助金予算を削減し、関税大幅引き上げによる税収とともに大型所得減税の原資に充て、国民生活を楽にすると選挙戦で約束した。 この文脈において自動車業界や地元政治家のサンクコストへのこだわりは、戦前・戦中のわが国の過ちを想起させなくもない。 満洲(現在の中国東北地方)や、アジア・南太平洋各地で占領地に投入した莫大な人的・経済的投資にこだわるあまり、米国との勝ち目のない戦争に突入したばかりか、ガダルカナル島の戦いで戦力を逐次投入したり、無謀なインパール作戦を強行したりする愚を犯し、結局「大ばくち 元も子もなく すってんてん」(敗戦時に満洲映画協会理事長の地位にあった甘粕正彦・元陸軍大尉の辞世の句)になってしまったのである。
■イーロン・マスクが「補助金廃止」を支持する理由 トランプ次期政権と米議会共和党のパワーバランスや米世論から考えると、インフレ抑制法は共和党州の雇用や経済を守るためにEV・バッテリー企業向け補助金が残される一方で、消費者向けのEV購入補助金は廃止される可能性が高いのではないだろうか。 事実、購入補助金廃止で悪影響を受けることが確実なテスラの総帥であるイーロン・マスク氏は、7月のアナリスト向けカンファレンスで補助金廃止への支持を明言し、その理由として「EV競合に壊滅的な打撃となるから」と語った。 つまり、こういうことだ。テスラは2023年にEV需要が落ち込み始めた際に、大幅な値引きを仕掛けて、自社が喧伝していた「不可逆的なEVシフト」論にまんまと乗せられたGMやフォード、独メルセデスベンツや韓国ヒョンデなどを値引き競争に引きずり込んだ。 ■EV参入企業が青ざめる“ホラーな筋書き” これにより、EVだけでもうけが出せていたテスラの損失は最低限に抑えられる一方で、EVによる利益体制を構築できていなかった競合各社は勝てる見込みのない値下げ競争で疲弊し、EV事業の赤字幅が拡大していった。 そこに、マスク氏が再選を強力に後押ししたトランプ氏が大統領職への返り咲きを決め、共和党支配下の米議会がEV購入補助金を廃止する。 マスク氏は新設の「政府効率化省(別名ドージ省)」のトップの一人として入閣して連邦政府予算のムダに大ナタを振るうことが決まっている。補助金廃止で功名を立てられるばかりか、テスラのライバルの多くは耐えられなくなり、EV事業を縮小するか撤退する。 こうしてEV市場で生き残ったテスラが独占的な旨味を享受する、というホラーな筋書きだ。 ■この筋書きには、さらに続きがある… 政商マスク氏のえげつなさは、値下げ競争や補助金廃止で競合を蹴落とすことにとどまらない。