赤字ローカル線復活の試金石に、近江鉄道「上下分離」で滋賀県は変わるか?鉄道中心のまちへ、踏み出した第一歩
(土井勉:一般社団法人グローカル交流推進機構 理事長) >>>近江鉄道線「血風録」シリーズの過去記事はこちら 【滋賀県提供写真】新生近江鉄道出発式に集結した国交相、知事、首長たち >>>近江鉄道・ローカル線のギャラリーページへ(20枚) ■ 2024年4月、新たな仕組みで運行開始 1.上下分離はゴールではなくスタート いよいよ2024年4月1日から、近江鉄道線は上下分離で運行を開始することになった。これまでの道のりを思い出すと、やっとここまでたどり着いたのかと、感慨が深いものがある。 ただ、上下分離の実現は未来の近江鉄道線から見れば、新たな仕組みで運行を進めるスタートであり、決してゴールではない。 本連載では、これまで近江鉄道線において、主に利用促進の可能性や潜在能力の掘り起こしの面を中心に扱ってきた。これは、近江鉄道線が上下分離をしても、それだけの意義がある鉄道だということを共有するためであった。 これと同時に、上下分離方式を実現するためには諸々の法制度に関する手続きなどのハードルも越えなければならない。鉄道事業を行う際には国土交通大臣の許可を得る必要がある。そのため、みんなで決めたから、明日からは上下分離だ、ということにはならない。 ここでは、主に法制度に関する内容をわかりやすく紹介することで、全国各地でローカル鉄道の再生に取り組んでいる人たちに参考になれば、ということで書かせていただくことにしたい。
■ 上下分離とは 2.第3種鉄道事業者としての一般社団法人近江鉄道線管理機構の設立 鉄道の上下分離とは、「鉄道の運行」を行う部分と線路や駅など鉄道を支える「インフラ部分を一体的に保有」する第1種鉄道事業者から、鉄道運行を行う部分(第2種鉄道事業者)とインフラ部分(第3種鉄道事業者)を分離することをいう。 これにより、赤字で苦しんでいた第1種鉄道事業者は第2種鉄道事業者として運行に専念できる体制が構築できることになる。 近江鉄道線では、これまで第1種鉄道事業者であった近江鉄道株式会社が第2種鉄道事業者として継続して運行を担うことが近江鉄道沿線地域公共交通再生協議会(法定協議会)で決まっている。 それでは、インフラ部分を保有し管理する第3種鉄道事業者をどうするのかが気になるところである。近江鉄道線では、滋賀県と沿線自治体が協議を重ねて、一般社団法人近江鉄道線管理機構(代表理事:南川喜代和・東近江市副市長。設立2023年1月17日)を立ち上げ、インフラ部分の管理を担う主体とすることになった。 株式会社や一部事務組合などの組織形態も検討されたが、意思決定が早く、沿線自治体からは兼務辞令で対応できるなどの観点から、一般社団法人が選択された。 写真₋1は彦根市にある一般社団法人近江鉄道線管理機構(以下、管理機構)の入り口の表示看板である。ここでは、既に上下分離が実現している。