世界的なスポーツベッティング市場の拡大から、日本スポーツ界の未来を考える【松田丈志の手ぶらでは帰さない!~日本スポーツ<健康経営>論~ 第9回】
実際に、フランス政府機関のAutorite Nationale des Jeux(ANJ)からライセンスを受けた18の事業者によって、正式にパリ五輪を対象としたスポーツベッティングサービスが提供されました。ANJは、オリンピックで実施される32競技のうち、ブレイキン、スケートボード、サーフィン、水泳のアーティスティックスイミングと飛び込み、体操の新体操とトランポリン、馬術の馬場馬術と総合馬術を除くすべての競技に対するライセンス申請を受領し、上記以外の競技はすべてベッティングの対象になりました。フランスが五輪開催という機会を活用し、自分たちの国、業界へのメリットを最大化するため、法改正にも着手して公式にIOCや組織委員会に主催権を認め、オリンピックにおける権利ビジネスの素地を作ったことは日本も学ぶべき点だと思います。 このように、世界では、スポーツベッティングの市場が急速に拡大している中で、日本はどうしたら良いのでしょうか。現在の日本ではスポーツベッティングは違法です。しかし、日本でも近しい合法の制度があるのです。それが「スポーツくじ」です。 スポーツくじの2023年度の売上は1203億円と公表されています(その中でtotoやWinerなど、サッカーやバスケットボールの勝敗やスコアを予想するくじの2023年度の売上は114億円)。これらのスポーツくじの実施により得られた収益を財源として、スポーツ振興くじ助成がスポーツ団体や地域、選手へと循環しています。実際私も、現役中にはこの助成の恩恵を大会遠征時やトレーニング施設利用時、強化費等を通して受けています。 私は、諸外国におけるスポーツベッティング市場の急速な拡大の流れの中で、これを参考にしつつ、違法市場との闘いという視点を持って日本の「スポーツくじ」の市場を大きく拡大することが日本のスポーツ界の新たな財源となり、資金循環につながるエコシステムを構築する可能性がある、と期待を寄せています。 スポーツくじとベッティングの違いはいくつかありますが、大きいところではスポーツくじは宝くじの延長線上にあり、予想する範囲が限定的ということです。現在スポーツベッティングでは、勝敗やスコアだけでなく、特定の選手のパフォーマンスに賭けたり、試合中の特定のシーンに賭けられたりするインプレイ・ベッティングと言われるものもあり、賭け方やオッズが多様です。インプレイ・ベッティングの人気上昇とともに、視聴者や視聴時間が拡大し放映権料も急上昇していて、選手やチームのデータ・コンテンツも更に価値が増しているという側面もあります。 一方で、八百長や選手・チームに対する誹謗中傷、大谷翔平選手の元通訳・水原一平氏の件でも話題となった依存症など、対策すべき課題が多くあるのも事実です。しかし私は、世界でスポーツベッティング市場が急速に拡大し、日本でも既に巨額の違法市場が拡がっている中で、「リスクがあるから」と日本でスポーツくじの拡大を検討しない状況が続くならば、いつまでも違法市場が潤うばかりで、本来恩恵を受けるべき日本のスポーツ界やアスリートに還元されないと考えています。 交通事故が危険だから車の運転をやめましょう、とはならないように、リスクを理解し、権利を明確化し、事前の予防・防御策を徹底することで、交通ルール同様に日本国内でも現状に合ったルール作りを進めることができるはずです。フランスのように、スポーツ団体に還元する仕組みを主催権で作りつつ、スポーツくじを大きく拡大することが、我々スポーツ界の価値を最大化すると共に大きな財源を生み出し、これが次世代の育成やトップチームの強化・地域振興に使えるようになることを大きく期待しています。 文/松田丈志 写真提供/株式会社Cloud9