「お帰りと言いたい」輪島の家族涙 福井沖に遺体、不明の翼音さんか
●着衣に「喜三」 福井海上保安署は1日、福井県三国沖で9月30日夕に女性遺体を収容したと発表した。同海保によると、着衣に「喜三」の文字が確認されており、奥能登豪雨で安否不明となっている輪島中3年の喜三翼音(きそはのん)さん(14)=輪島市久手川(ふてがわ)町=の可能性がある。同日、着衣を写真で確認した翼音さんの父鷹也(たかや)さん(42)は「娘の服で間違いないと思う」と話した。希望を捨てず待ち続けた家族や友人は悲しみに暮れ、鷹也さんは「顔を見たら、お帰りと言いたい」と涙を流した。 ●父が譲った長袖重ね着「最後に言うこと聞いてくれた」 福井海保によると、30日午後4時15分ごろ、坂井市の福井港の西約40キロの沖合で、漁船が女性の遺体を発見し、118番通報した。約2時間10分後、同海保の巡視艇「あさぎり」が遺体を収容した。 1日午前9時ごろ、輪島署を通じて連絡を受けた鷹也さんが、家族とともに同署を訪れ、遺体の着衣の写真2枚を確認した。 福井海保によると、遺体は身長約150センチで、いずれも黒っぽい長袖のスエットと半袖シャツ、ジャージーのズボン2枚をはいていた。ズボンのタグにフェルトペンで「喜三」と記されていた。 鷹也さんによると、スエットにはスマートフォン用ゲームのキャラクターが描かれていた。鷹也さんが1年前に翼音さんに譲ったという。 翼音さんの服装は、豪雨の当日、鷹也さんが「けがをしないように長袖、長ズボンを重ね着して」とLINE(ライン)のビデオ通話で伝えた通りだった。「思春期で僕の言うことはあんまり聞かなかったですけど、最後に僕の言うことを聞いてくれたんだと思った」。鷹也さんは声を詰まらせた。 翼音さんが中1の頃から憧れていたという輪島塗職人の祖父誠志(さとし)さん(63)は「本当に優しい子だった。思い出すと涙が止まらない」と声を落とした。翼音さんが「命より大事だった」といい、「早く温かい布団でゆっくり休ませてあげたい」と最愛の孫を思いやった。 鷹也さんと誠志さんは、悲しみをこらえながら、捜索に当たった警察や消防、地元漁師らへの感謝も口にした。 ●「信じたくない」輪島中の幼なじみ 翼音さんとみられる遺体が発見されたとの情報は翼音さんが通っていた輪島中にも伝えられた。幼なじみの女子生徒(15)は「信じられないし、信じたくなかった」とうなだれた。 翼音さんは豪雨の直前まで体育祭に向けたダンスの練習に励んでいたといい、行方が分からなくなる前日の放課後、「体育祭頑張ろう」と言葉を交わして別れた女子生徒(14)は「悲しいけど、これで家族のもとに帰ることができる」と声を振り絞った。 ●潮の流れと逆に 金大環日本海域環境研究センターの鈴木信雄教授によると、石川県沿岸は対馬海流の影響で潮が西から東に流れているが、遺体は輪島市から約170キロ西で見つかった。 これについて、鈴木教授は「海上に浮かんでいると風の影響で西に向かう可能性がある」と指摘。さらに、「海流の大きな渦により通常とは逆の西へ潮が進む現象が起きることもある」とした。