墜落したアゼルバイジャン航空機で何が起きたのか?同型機を操縦していた元機長が解説
■ 最後は燃料切れと操縦不能で墜落か だが、パイロットたちがなんとか機をアクタウ空港に向けて着陸しようと懸命に努力する姿が目に浮かぶ。 当時、不運なことに、アクタウ空港の天候が悪く、視界約3キロメートルと遠くから視認できる状態ではなかった。それが理由かどうかわからないものの、機は空港を確認しようとしたのか、旋回を繰り返している。そして最後は空港の南西側から右旋回しながら落下していった。 墜落前に少し機首が上がっているが、それは残されたバッテリーによってスタビライザー(水平安定板)を操作できたものと想像する。ちなみにエンブラエル機は、御巣鷹の尾根(群馬県)に墜落したJAL123便事故のように全ての油圧を失った場合も想定して、機の上下動を可能にするスタビライザーを電動にする設計となっている。 しかし最後は右へ傾き、機首も十分に上がらずに空港の手前約3キロメートル地点にノーズ(頭)から先に接触する形で墜落している。 機体後部が炎上していないのは燃料がなかったからで、結果的に後部の乗客が救助されたことにつながったのだろう。 今回の事故(あるいは事件)について、カザフスタンとアゼルバイジャン両政府は、フライトレコーダーの分析などによって原因を究明すると表明している。
■ 繰り返される民間航空機への軍事攻撃 民間航空機への軍事攻撃は、近年も繰り返されている。 2014年7月にウクライナ上空を飛行していたマレーシア航空17便が、ウクライナ東部ドネツク州上空で親ロシア派の「ブーク」と呼ばれるミサイルで誤爆され、298人全員が死亡。2020年1月には、イランがテヘランの空港から離陸したウクライナ航空機を誤爆し、176人全員が死亡する事件が起きている。 民間航空機を撃墜することは、1983年にサハリン沖で大韓航空007便が旧ソ連の領空を侵犯したとして戦闘機によって撃墜された事件を契機に「いかなる理由があっても民間航空機を撃墜してはならない」という国際ルールができたが、今回の件も含め、同じような結果をもたらす軍事行動が後を絶たない。 今回のエンブラエル機を含め現代の航空機の多くは、衛星を利用したADS-B電波を使ったトランスポンダー(管制用自動応答装置)を装備しており、地上のレーダーからも航空機の便名まで識別できるようになっている。 それに対し、迎撃する防空システムの機能と運用が戦闘状態の中では無秩序状態にあり、無差別な迎撃が行われているのではないか。 現状では、民間航空機の安全を守るには、戦闘状態にある国や空域での飛行を避ける以外に有効な対策はない。 国連の航空部門のICAO(国際民間航空機関)は飛行中止勧告はできても、飛行禁止の措置を取る権限はなく、それぞれの国の行政機関と航空会社の判断に任されている。そうした仕組みを見直すことも急務と言える。二度と民間航空機が軍事攻撃の標的になってはならない。
杉江 弘