再審法改正を阻む「検察の無謬性神話」 とは…稲田朋美議員に聞く 「法改正の実現につなげたい」と意欲
●刑期満了後にようやく再審が認められた「湖東事件」
――袴田事件以外に、再審が問題になった事例にはどんなものがありますか。 稲田:例えば2003年に発生した湖東事件があります。女性看護助手が入院患者の人工呼吸器のチューブをはずして殺害したという殺人容疑で2007年に懲役12年の判決が確定しました。看護助手の自白が有力な証拠とされたのですが、のちにこれを否定し、無罪を主張していました。 しかし判決は覆らず、看護助手は服役中に再審を請求しては棄却されることを繰り返し、2017年には刑期満了で出所。その後の2019年になってようやく再審が開始されることになり、2020年3月に大津地方裁判所が無罪判決を言い渡すことになったのです。 無罪判決後、大西裁判長は異例の説諭を行い「逮捕から15年以上たって初めて開示された証拠もありました。取調べや証拠開示など一つでも適正に行われていれば、本件は逮捕、起訴されることもなかったかもしれません。」とのべたのです。 不当な捜査と長期間に及ぶ再審手続きで女性の24歳から40歳を葬り去る ことを許してはならないと思います。
●検察は無罪判決を「あってはならない」と考えている
――規定がないことが問題を引き起こしている以上、その規定を設けるべきだという再審法の改正には反対する論理がないので、改正のハードルは低いように思いますが。 稲田:まず法務省が反対とは言わないまでも積極的ではないように思います。官僚から「法改正しなくとも、運用で対応できます」と言われると、そうなのかなと思ってしまう政治家もいるでしょう。法務省の刑事局は検察出身者が多く、「検察に不利になるような改正はしたくない」と考える人もいるのではないでしょうか。 日本の検察は刑事裁判の有罪率が99.9%であることを誇っているため、一度確定した有罪が再審で覆され、無罪になるようなことは「あってはならない」と考えているのかもしれません。 こうした「検察の無謬(むびゅう)性」を誇る体質が再審法改正を難しくしている面があるのではないでしょうか。世間のとらえ方としても、「逮捕・起訴されたのにはそれなりの理由があるはずだ」「まさか警察や検察が、無実の罪で人を有罪や死刑に追い込むようなことをするはずがない」という性善説的な感覚を持っている人が大半です。 しかし、人や組織は誰でも間違えることはあり、完璧ではありません。それは検察でも警察でも、裁判所でも弁護士でも、もちろん政治家でも同じことです。