再審法改正を阻む「検察の無謬性神話」 とは…稲田朋美議員に聞く 「法改正の実現につなげたい」と意欲
●「再審法の問題は大きく分けて3点」
――なぜ再審までにこれほど長い時間がかかってしまうのでしょうか。 稲田:時間がかかりすぎることを含め、再審法の問題は、大きく分けて3点あげられます。 1つ目は、再審法については戦前、大正時代に作られた刑事訴訟法の規定がほぼそのまま使われており、現行憲法に則った手続保障のための規定がない点です。そのため、どういった場合にどのような手続きを経れば再審が認められるかが具体的ではなく、再審請求が認められるのが非常に難しい状態のまま放置されてきた実態があります。 その結果、現在の再審法に憲法31条以下の刑事訴訟における手続保障の精神が全く生かされておらず、憲法37条の迅速な裁判を受ける権利という憲法上の権利を侵害する結果になっていることです。 現行憲法になってから唯一、不利益再審、つまり一度無罪になった人に対してもう一度裁判を行って有罪にするという規定に関しては、一事不再理の原則に基づいて廃止されました。しかし変わったのはその点だけで、再審法に関する刑事訴訟法の条文はたった19か条しかなく、再審手続きの詳細な手続きについては定められないままになっているのです。立法不作為といっても過言ではないかもしれません。 2つ目は、1つ目とかかわりますが手続きが決まっていないため、証拠調べをするかどうか、再審が認められるか否かは裁判官次第、となってしまっている点です。裁判官が冤罪事件に対して強い問題意識を持っているなどの場合は検察側にとって不利な証拠も提出させたうえで再審を認めるか否かを審議しますが、検察には証拠提出の義務がないので、裁判所の証拠提出勧告に従わない場合もあります。 また、そもそも再審請求審においては、期日指定についても、証拠開示についても規定がありませんから、裁判官は長年、期日指定もせず、証拠調べもせず、事実上放置して、突然「再審は認めない」との決定を出すケースもあります。こうした裁判所の熱意や力量次第といった現状は「再審格差」とも呼ばれています。 このため、再審が認められるまでに長い時間がかかってしまうことになります。袴田事件の場合も、初めに静岡地裁に再審開始が請求されてから実際に再審が開始されるまでに43年もかかっているのです。袴田事件では30年以上弁護人が繰り返し請求し行った証拠開示請求を裁判官も検察官も無視し続けたのです。 3つ目は、検察官抗告です。再審開始が決定されると、抗告権を持つ検察は抗告、つまり再審開始決定に対する不服申立てを行うことができます。これが繰り返されることで、再審が認められにくくなるうえ、再審請求が認められたとしても開始までに長い年月がかかってしまうのです。袴田事件でも静岡地裁が再審開始決定をしてから、実際に開始されるまで10年かかりました。 ――では、どのような改正をおこなうべきでしょうか。 稲田:再審請求には「無罪を言い渡すべき、明らかな証拠を新たに発見した」という証拠の「明白性」「新規性」が必要だとされています(刑訴法435条6号)が、その条文をそのまま適用すると再審が認められるのは、真犯人を見つけたような明らかな無罪の場合に限られ非常に狭くなってしまいます。 しかし、最高裁はその解釈について「確定判決における事実認定につき合理的な疑いをいだかせ、その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠」としており、(白鳥事件、1975年)この最高裁の解釈を法律のなかに書き込むべきだと思います。 袴田事件に関しては、検察側は袴田さんが殺害した決定的な証拠として事件から一年後に味噌タンクの中から発見された衣類5点を挙げていました。しかし弁護側は衣類を味噌漬けにする実験を行い、発見直前に5点の衣類が何者かによって味噌タンクの中に入れられた可能性があるものであるとの報告書を作成し、提出。これにより再審が認められたのです。 次に、再審開始のための審理が長期化するのを避けるためには、裁判所による期日指定の定めや証拠開示手続きの規定など最低限の規定を設けることが必要です。 また、検察による抗告を制限する制度も必要です。検察は再審開始されれば、再審公判で争うことができるわけですから、裁判所の開始決定に今のように機械的ともいうべき抗告をすることはいたずらに審理を長期化させることになるのです。 さらに、確定審や再審において、過去に審理に関与した裁判官を除斥・忌避できるようにすることも裁判の公平から必要です。 いずれにしても、規定がないことが問題です。