【内田雅也の追球】縦じまを着たサンタの功績にならいたい 今こそ思い返す「おもいやり・いたわり」の心
「サンタクロースはいるのですか?」という少女の疑問に答えた有名な新聞社説がある。1897年9月21日の米紙ニューヨーク・サンだ。 8歳のヴァージニア・オハンロンは「サンタなんかいない」という友だちと口論となった。父に勧められ、新聞社に手紙を出したのだった。 <ヴァージニア、それは友だちの方がまちがっているよ。じつはね、サンタクロースはいるんだ>と答えている。<愛とか思いやりとかいたわりとかがちゃんとあるように、サンタクロースもちゃんといる。そういうものがあふれているおかげで、人の毎日はいやされたり、うるおったりするんだ>。 名回答は大きな反響を呼び、同紙は以後毎年12月にこの社説を掲載した。<千年後、いや千年の十倍のまた十倍後になってもサンタクロースは子どもたちの心をわくわくさせてくれると思うよ>。今も色あせていない。 阪神にはサンタクロースとなった偉大な先人がいる。球団創設時からのエースで、監督兼投手として活躍した若林忠志である。「父はクリスマスに家にいたことはありませんでした」と5人の息子・娘が声をそろえる。「おまえたちには両親がいるじゃないか。世の中には親のない子もたくさんいるんだ」と諭し、全国の施設を回った。 戦後、誰もが貧しかった時代である。若林は「子は宝」と日本の復興に青少年の善導、育成を掲げていた。身銭を切って「阪神タイガース子供の会」を立ち上げ、自ら代表に就いた。球団公認で、事務所は大阪・梅田の阪神電鉄本社内に置かれた。同会は2003年までそのまま存続。04年からは「タイガース公式ファンクラブKIDS」として今に通じている。 阪神は新年1月1日付で「野球振興室」を立ち上げる。23日、機構改革が発表され、配布された文書には「子供たちが野球を続けられる環境、野球に慣れ親しむ環境をプロアマが連携・協力して整備することが、野球界全体における喫緊の最重要課題」とあった。相当な危機感がうかがえる。 社会貢献・慈善活動を称える若林忠志賞を設けている阪神である。歴史を見つめ直す球団創設90周年、先人にならいたい。社説にあったように「おもいやり・いたわり」の心がいる。子どもたちがあこがれるスターとなり、サンタクロースとなる。そんなチームでありたい。 =敬称略= (編集委員)