なぜ日立はDXブランドの“老舗”になれたのか? Lumada担当者が真相を明かす
2024年は、国内大手がDXブランドを相次いで立ち上げた年だ。5月にはNEC「BluStellar」(ブルーステラ)、三菱電機「Serendie」(セレンディ)、KDDI「WAKONX」(ワコンクロス)がそれぞれ立ち上がった。いずれも単なる営業目的ではなく、顧客の課題解決に主眼を置いているのが特徴だ。 【写真を見る】Lumada担当者の経歴 各社がブランドを立ち上げる中、それぞれどんな違いや特徴、強みがあるのか。どんなビジョンを描いているのか。連載「変革の旗手たち~DXが描く未来像~」では、各社のDXのキーマンに展望を聞いていく。最終回では、各社の違いを考察する。 初回で取り上げるのは、12月16日に約4年ぶりの社長交代を発表した日立製作所だ。同社は8年前の2016年に、DX支援ブランド「Lumada」(ルマーダ)を展開。今や日立の売上高で「4分の1以上」を占めるまでに成長した。 Lumadaは「Illuminate」(照らす・解明する・輝かせる)と「Data」(データ)を組み合わせた造語だ。日立の先進的なデジタル技術を活用したソリューション、サービス、テクノロジーの総称となっている。顧客のデータに光を当て、新たな知見を引き出すことによって、経営課題の解決や事業成長に貢献することを目指す。 なぜ日立は2016年の段階で、ブランドを立ち上げられたのか。Lumadaの推進に関わる、デジタル事業開発統括本部の重田幸生さんと、Lumada戦略担当部長の江口智也さんに聞いた。
1400件のユースケース “パターンオーダー”で課題解決
――日立は2016年にLumadaを立ち上げました。近年多くの国内大手がDXブランドを立ち上げている中、その「原型」とも言え、とても高い完成度を誇っています。どのような経緯で始まったのでしょうか。 重田: 当時、私は日系コンサル企業にいて、経営コンサルの立場で電機業界に関わっていました。日立とも仕事をしていたので、Lumadaの動きもよく見ていたのですが、2023年に日立に入社し、Lumadaの推進に直接関わることになるとは、当時は思ってもいませんでした。 2016年当時、米GEの「Predix」(プレディックス)や独シーメンスの「MindSphere」(マインドスフィア)といった、産業機器などから得られるビッグデータによってDXを推進する「IoTプラットフォーム」と呼ばれる取り組みが盛んでした。機器から上がって来るデータを可視化して顧客に提供したり、機器の運転を最適化したりする仕組みですね。日立のLumadaを聞いたときには、同種の取り組みなのだろうと思って見ていましたが、少し違いました。 Lumadaもローンチ当初はIoTプラットフォームとして打ち出していましたが、さらに顧客の課題や、やりたいことなどをプロトタイピングで検証しながら、いかにして具現化するかという仕組みでした。あくまで課題解決ドリブンです。何か定型のIoTプラットフォームを売るものではない点で、他社とは違いました。 ――Lumadaでは2016年当時から、今に通じる課題解決ドリブンの発想や構想があったわけですね。 重田: 2016年当時は、オープンソースソフトウェア(OSS)やビッグデータ、AI活用を推進していた時代でした。新たに得られるデータから「こういう課題がありますよね。機器からこういうデータが上がってきますよね。このデータはこういう風に解釈するといいですよね」と言って、顧客に応じたソリューションを提供するという発想から始まりました。 ただ、これは顧客ごとに一から組み立てるものではなく、日立のこれまでのユースケースやナレッジの中から、やりたいことに合わせて組み合わせて提供するものになっています。テクノロジーの引き出しをたくさん持っていても、正しい使い方が分からないと、顧客の課題を解決できません。その点、日立には使いこなしの技術がある。日立のこれまでのノウハウを、顧客の課題解決に積極的に生かすわけですね。 ――この考え方は2016年から変わっていないのですか。 重田: Lumadaは時代の趨勢に合わせて変えている部分はありますが、大きな考え方は変わっていません。やりたいことの基本的な考え方、コンセプトは今とほぼ同じですね。そこから、われわれの得意な領域から重点的に進めています。 Lumadaでは現在、約1400件のユースケースがあります。ユースケースは業界と課題別に社内で検索できるようにしています。例えば製造業のこういう業種の物流の課題だとしたら「こういうLumadaのソリューションがありますよ」と顧客に素早く提案できます。 その後、顧客から、以前と同様の施策をして、うまくいかなかった取り組みを聞いていき、課題点を特定してクリアにしていきます。そしてそれに対して「こういう打ち手がありますよ」といったように、コンサルティング的な形で進めていくのが、Lumadaの一例だと思います。 ――服で例えると、フルオーダーメードではなく、パターンオーダーメードのような感じですね。 重田: そうですね。オーダーメードで一品一品作っていると効率が上がりません。そこでコンポーザブル(構成可能)に部品化して進めています。できるだけ効率的に進めるために、2016年に「サービス&プラットフォームBU(ビジネスユニット)」を作りました。そのBU長が、当時専務だった小島啓二社長でした。Lumadaの立ち上げと同時に、組織に横串を通して社内の知見を集めたんですね。バラバラに顧客と対峙して、オーダーメードでやっていたらダメだし、一方で既製品の大量販売のような形にしてもダメです。当初から部品化して、コンポーザブル化して組み合わせてソリューションを提案するコンセプトにしています。