埼玉県の「高校共学化」、浦和・大宮と浦和一女の違いから考える、ジェンダー同等の視点以外に不可欠な視点とは
別学ゆえの「尖り」は今の時代に合っている
だが逆にいうと、共学化によって片方の性しかいないがゆえの「尖り」が弱くなる可能性はあろう。ある中高一貫校の教諭がこう話していた。 「開成の数学の先生はずっと勉強をしています。数学オリンピックのメダリストやそれに近いレベルの生徒たちもいますからね。彼らの前に立って授業をするからには、相当勉強をする必要があります」 開成中学の入試の算数は、大手塾の算数のトップ講師でも苦戦するレベルだ。その入試をクリアした生徒たちの数学のレベルは高くて当然だろう。 反対に女子校は、前述のように英語や国語のレベルが高い傾向にある。 日本女子大付属は付属校なので、ほぼ大学の一般選抜対策をしないが、その分、国語の授業では教科書の文章だけでなく、本を1冊読ませて授業の題材にしたり、長い文章を書かせて表現力を鍛えたりもする。授業で培った表現力を生かして総合型選抜で他大学を受験する生徒も増えているようだ。 また、ある中高一貫校の英語教師は、「頌栄や雙葉、白百合の英語最上位クラスは信じられないレベルの高さです。オタク的な英語の知識が問われることも」と話していた。 別学は、片方の性が得意な傾向にある科目に関して先鋭的に高いレベルになっていく。そういった特徴を残しつつ共学化するのは、非常に難しいだろう。それよりは、別学のまま弱い部分を補強したほうが良いとも考えられる。 女子校で圧倒的な合格実績を誇り、2024年の東大現役合格が52人の桜蔭は数学の進度が速いことで知られる。豊島岡女子は何十年も前から物理の教員が授業中の実験などを通して生徒たちの理解を深める工夫をしてきた。このように、女子校もカリキュラムや授業内容をアップデートすればいいわけで、実際、多くのいくつかの女子校でこうした機運が上がって、数学や物理の授業を強化している。 作家の藤沢数希さんは『コスパで考える学歴攻略法』(新潮新書)にて、「20代の若いうちにビジネスや研究で評価されるのは総合点ではなく、得意な1科目のみだ。たとえば、コンピューターサイエンスのずば抜けた才能があれば、他が何もできなくても若くして成功して金持ちになりやすいし、学術研究の世界でも注目されることはあるが、5科目全部がそこそこできたところで若者がビジネスやアカデミックな世界で評価されることはない。アカデミックな研究の道に進むと、どんどんと専門化していくので、一芸が大切なのである」と指摘している。 実際、独立して稼げる仕事は、例えば医師やプログラマーなどの専門性が高い職種だ。まんべんなくなんでもできればキャリアが積める仕事ではない。そういった意味で、実は別学の「尖り」は時代に合っているようにも思える。共学化の議論は、ジェンダー同等の視点だけでなく、共学化することで学校の教育や授業内容がどうなるかまで考えたうえでしていくべきなのかもしれない。 (注記のない写真:EKAKI / PIXTA)
執筆:ノンフィクションライター 杉浦由美子・東洋経済education × ICT編集部