《ブラジル》平安貴族も食べた「芋粥」 実は粥ではなく高級デザート サンパウロ在住 毛利律子
こちらに移住して以来、日本語テレビ番組ではNHK国際放送やその教養番組を見る機会が増えて、ずいぶん賢くなったような気がする。特に毎年、一年を通じて、歴史上の人物の生涯を描いた大河ドラマを観ることは楽しみの一つとなった。 今年は世界最古の長編文学「源氏物語」の作者・紫式部である。放送は始まったばかりだが、これは出だしから、単に美しい一巻の絵巻のような古典物語ではなかった。1000年前の生々しい権力構造社会の闇が、これでもかと暴露される。高貴な人々の中に潜む人格破綻的行動、立身出世のための熾烈な内部抗争、権謀術策の数々貪・瞋・痴の三毒にまみれた所業が繰り広げられ、固唾を飲んで見入ってしまう。今も昔も変わらないではないか。全く、今見るのに相応しい。 平安時代は、会話の際に「扇子で口元を隠す」のがマナーといい、それが「雅な仕草」と言われるが、男女とも三人寄れば扇子で口元を隠しつつ、前のめりになって悪知恵の応酬、打算の掛け合い、嫉妬や陰口、悪口三昧の輪になる。まるで現代だ。 もっと凄いのは、貴族の纏う豪華絢爛な衣装にはすっかり目を奪われる。いわゆる「衣冠・束帯」「十二単」等はあでやかこの上ないが、実際、日本には、このような着物を仕立てる高度な物づくり職人がすでに実在していたということに、改めて圧倒されるのである。また、貴族社会の諸行事・儀式における洗練された儀礼的所作、子女への厳しく徹底された英才教育には驚かされる。
平安貴族の食事
このドラマが放映されると、インターネットでは平安貴族の衣食住が話題になっている。中でも、貴族の食事に「芋粥」が登場するということは、興味津々である。なぜなら、芋粥と言えば、食糧難の時期に、少しお米が入った、ほとんどお芋のお粥を連想するからである。 ところが「芋粥」は、単に「お芋を入れたおかゆ」にあらず。ここでいう「芋粥」の「芋」は山芋を「甘葛」で煮たおかゆのことで、貴族の食事のコース料理の最後に出るデザート、ソブリメーザ(sobremeza)とのことである。 「甘葛」は甘味料のひとつで、砂糖が貴重な時代に重宝されていた高級食品であった。 因みに、貴族は肉体労働をしないので、一日二食が基本で、朝は10時ごろ、夕飯は午後4時ごろであった。一日三食になったのは鎌倉時代からだという。 主食は「白米」。それは「強飯」と呼ばれるちょっと固めのご飯であった。「強飯」は、朝食などでは、お粥にして出されることもあった。「硬めの粥」は現代の「ご飯」に近いもの。「軟らかめの粥」は、それこそ「お粥」のようなものであった。
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