《ブラジル》平安貴族も食べた「芋粥」 実は粥ではなく高級デザート サンパウロ在住 毛利律子
副食のおかずは実に豊富で、野菜や山菜、海藻などをはじめ、魚、鳥、イノシシといった肉類が並び、「塩」や「酢」といった調味料が添えられていた。 紫式部の「源氏物語」に出てくる食品(副食)の一部は、雁の卵、鮎、鮒など池の魚、貝類、干した魚、若菜、筍、蓮の実、栗、果物等々。なかなか種類豊富である。 それでは庶民はというと、主食は、基本的にアワやキビといった雑穀である。そして、少しでも腹持ちをよくするため、雑穀をお粥のようにして食べていた。 副食は、基本的には「一汁三菜」で、毎日というわけではないが、野菜や魚なども食していたが、一般的に貧しく、きちんと食事をしていた人は限られていた。(『源氏物語にみる食生活 その粥について』高山直子)
「五位の芋粥物語」
平安時代、この「芋粥」の甘さに恋焦がれた一人の下級貴族・五位の想いを文学にしたのが芥川龍之介であった。主人公の「五位」とは平安時代の位階の事で、最上位の正一位から最下位の少初位下まで全部で30段階あり、詳しいことは、ここでは割愛する。 芥川龍之介の短編小説には古典を題材にした作品として、「羅生門」「鼻」「芋粥」などがある。「芋粥」の元になる話は『今昔物語集』の巻二十六第十七で、平安時代前期(9世紀半ば)の頃を舞台としている。 『今昔物語集』自体に登場する主人公は、若き藤原利仁である。利仁が正月の宴会で、家来に署預芋(ねばりの強い芋、長いも、山芋、等々の事)粥を振舞ったところ、下級貴族五位の者が「ああ、お腹いっぱいになるまで芋粥食べたい…」と呟いた。 五位の立場では、滅多に食べられない当時のごちそうの芋粥を「飽きるほど食べたい」という願望を抱いていたのである。この言葉を聞いた利仁は、出身地の越前から署預を山のように集めて署預粥を作り、食べさせた、というのがあらすじである。 それでは、芥川龍之介はこの話にどのように迫ったのか。 時は、「平安朝と云ふ、遠い昔が背景になつてゐると云ふ事を、知つてさへゐてくれればよい。それは最高権力者・摂政藤原基経の時代」と始まる。 主人公は、「五位」という男。「姓名を明らかにしたいが、実際、伝はる資格がない程、平凡な男」
【関連記事】
- 《特別寄稿》ペリーが愛した琉球王国の姿=黒船の首席通訳の日本遠征随行記 聖市ビラ・カロン在住 毛利律子 2023年12月23日
- 特別寄稿=ハーバード大知日派が語る日本の美徳=ジョーンズ教授「日本は驚異的な国」=サンパウロ市ビラ・カロン区在住 毛利律子 2023年11月9日
- 《特別寄稿》米国日系アメリカ人作家 アレン・セイの『おじいさんの旅路』=移民の忘れ難き二つの国への郷愁=サンパウロ市ヴィラカロン在住 毛利律子 2023年10月7日
- 《特別寄稿》大自然に魅了された博物学者たち=19世紀のブラジル動植物探検の旅=サンパウロ市ビラ・カロン区在住 毛利律子 2023年8月26日
- 《特別寄稿》「日本文化は、他と比べるものがない」=日本人絶賛したレヴィ=ストロース=サンパウロ市ヴィラカロン在住 毛利律子 2023年7月21日