“裁判官の会議”は「見られたら、とても恥ずかしい」… 現職の敏腕判事の“勇気ある発言”を待ち受けていた「運命」とは
「改善されてきていること」もある
他方で、以前と比べて改善されてきていることもある。 かつて、最高裁は、水害訴訟・原発訴訟・集団的労働訴訟などの担当裁判官を集め「裁判官会同」を行っていた。問題の大きい制度があったが、現在は存在しない。 「裁判官会同」では、係属中の裁判を抽象化した事例を出題して、出席裁判官たちに議論をさせた上、最後に事務総局付の裁判官が「最高裁の見解」なるものを発表し、内部資料として冊子にまとめ、下級審に配布するといったことを行っていた。 このようなことは、裁判官の独立を侵害し、三審制を無意味にするものであることは明白であろう。しかし、誤った「正解志向」の下にあった当時の最高裁事務総局の「裁判をしない裁判官」たちは、このような誤った「指導」を下級審に対して行っていた。 その事実が社会に広く知られて指弾を浴びた。 現在は、主として司法研修所において、たとえば「行政訴訟」、「建築訴訟」、「医療訴訟」あるいは「労働関係事件」といった分野別の研究会を開催している。 全国の裁判所から参加希望者を募り、所属裁判所や裁判官経験を考慮してバランスよく選定された参加者から、あらかじめ出題を募り、事件が特定されるような出題を避けてなるべく抽象化しながら議論を促すように配慮している。 当局が最後にまとめの意見を示すようなこともない。 私も十回近く参加しているが、特に問題を感じたことはない。その点は、最高裁の下にある司法研修所を信頼している。 司法研修所の教官たちは、法律問題のみならず社会科学・自然科学全般にわたってよく勉強しており、講師や演題の設定に関しては、その識見に敬服することも多い。裁判官の研修から司法修習生の教育まで含めて、「裁判をしない裁判官」の中では、よく頑張っていると思う。
竹内浩史(裁判官)