これを知らないと単なる風邪でも危険な目に遭う…「雨乞い」と同じくらい非科学的な治療が行われるワケ
■「三た論法」は抗がん剤の誤情報の一因 さて、「三た論法」は思わぬ誤情報を広める原因にもなります。例えば「抗がん剤は寿命を縮めるだけ。抗がん剤を使用しているのは世界で日本だけ」といった誤情報が広まっているのをご存じでしょうか。確かに抗がん剤に副作用はありますが、命を縮めるだけというのは大間違いです。 抗がん剤は生存期間を延長したり、術後の再発を抑制したりすることが臨床試験により確認されていて、もちろん海外でも標準治療に使用されています。手術後にがんが再発したり、手術ができないほど進行したがんに対して抗がん剤治療が行われた場合、一時的にがんを縮小させることはできても、がんを完治させることはほぼできませんが、生存期間の延長や腫瘍の縮小による生活の質の改善を期待して使われるのです。 しかし、そうして抗がん剤を使うことで生存期間を6カ月間から9カ月間に伸ばしたとしても、抗がん剤を使ったあとに患者さんが亡くなれば、抗がん剤が死亡の原因だという誤解が生じてしまいます。このような誤解を避けるため、医師は治療の目的や限界について丁寧に説明することが不可欠でしょう。近年、抗がん剤の治療成績や副作用対策が格段に進歩しているので、今後は誤情報を信じる人が少なくなっていくだろうとも思います。 ■ワクチンに関する誤解の裏にも「三た論法」 ワクチンに関する誤解も「三た論法」によって生じています。例えば、HPVワクチンは接種後の激しいけいれんや全身の痛み、運動障害といった多様な症状が報告されたため、日本では2013年に積極的勧奨が差し控えられました。ワクチン接種後にそうした症状が起きた場合、ワクチンが原因である可能性を疑うのは当然のことです。 また、原則として健康な人に接種するワクチンには高い安全性が求められ、疑いがある以上、積極的勧奨の差し控えもやむを得ない一面があります。COVID-19に対して、アビガンやイベルメクチンが使用されたのと似た緊急避難的な措置です。 しかし一方で、「HPVワクチンを接種した」「多様な症状が出た」「HPVワクチンが症状を引き起こした」と決めつけるのは、単なる「三た論法」であり、誤りです。今では、HPVワクチンの重篤な副作用だとされた多様な症状は、ワクチンを接種していない人にも起きることがわかっています。国内外の多くの比較研究ではワクチンと諸症状の関連は示されず、HPVワクチンは十分に安全だというのが国際的なコンセンサスです。