もともと毎月開催のはずが……党首討論の狙いとは? 政策研究大学院大学教授・飯尾潤
安倍晋三首相と野党党首との党首討論が10月は開かれなかった。11月は26日に開かれると伝えられている。そもそも、「党首討論」とは何なのか。 党首討論とは、国会の制度であり、与党の党首である内閣総理大臣と野党の党首、とりわけ野党第一党の党首との討論を、国会会期中には原則として週1回水曜日の午後に開くという制度である。しかし、現在では、週1回どころか、月に1回も開催されないようになってしまっている。 もっとも、2012年の11月には、当時の野田佳彦総理(民主党代表)が、安倍晋三自民党総裁の質問に答えるかたちで、いきなり解散・総選挙の意向を表明することで、一挙に政治が動くなど、注目を集める党首討論もあった。 この党首討論は、1999年に自民党と自由党が連立を組む際、主として自由党(小沢一郎党首)が要求した事項をもとにした自自連立合意に基づき、国会審議活性化法(国会審議の活性化及び政治主導の政策決定システムの確立に関する法律)によって創設された。この法律で、副大臣・政務官制の導入や、政府委員制度(官僚が国会で政治家同様に答弁する制度)の廃止とセットになって導入され、国会を政治家同士の討論の場に転換するというねらいがあった。それまで日本の国会では、衆参両院とも、政治家である大臣などへの質疑のほか、大臣の代理として答弁する官僚である政府委員への質疑が審議の中心をなしており、官僚(政府の運営主体だと見られがちであった)から細かな答弁を引き出すことが国会議員の仕事と考えられていたのを変えようとしたのである。
このとき党首討論の導入にあたっては、イギリス議会のクエスチョン・タイムが参考にされたといわれる。これは、イギリス議会の庶民院本会議において、開会中毎日行われているクエスチョン・タイムのうち、水曜日の午後の30分は、野党党首が首相に対して、事前の質問通告なく、自由な質問が出来る制度であって、イギリス議会でも、とりわけ注目される審議である。 ただ、日本ではイギリスと議会の構造が違い、日本では質問ではなく討論という名前がついている。モデルであるイギリスのクエスチョン・タイムは、まさに質問の時間であり、野党党首が首相に質問をする時間である。つまり、双方向の討論を行おうとして、時間も長い日本の 党首討論は大きく違ったものなのである。しかし、どうしてもモデルを意識することがあり、しばしば両者は混同されてきた。 日本では、衆参両院の審議に首相が出席することもあり、党首討論は、衆参それぞれに置かれる国会基本政策委員会の合同審査会という形をとって、45分間という時間で行われる。そこで、委員長も衆参の委員長が交代で務め、衆参から委員が選ばれており、野党(衆参いずれかで10人以上の会派に限定)の党首もこの委員会の委員として党首討論に参加する。また、これまで確立した慣例として、連立内閣を構成する首相以外の党首は、党首討論に参加しない。 党首討論の導入で、法案などについての質疑だけではなく、政治家同士が自由に討論する機会を増やし、とかくスキャンダル追求や、揚げ足取り、同じ質問の繰り返しなどの弊害が指摘される国会審議に新しい風を吹き込もうという意図があった。また、党首討論の場を設けることで、予算委員会などで、一般的な事項を総理にぶつけるのをやめ、予算委員会を予算を審議する場所へと変えていこうという意図もあった。また党首討論は、次第に形を表しはじめていた二大政党制的傾向にも合致した制度だと考えられていた。