生成AIで組織風土さえも変革できる ベストセラー著者が語る人事とAIの可能性
AIの時代にAIを学んでも差は生まれない人事がサポートすべきは「専門領域を磨く」ための学び
――従業員が生成AIを活用できるようになるために、人事はどのようなサポートを担うべきでしょうか。研修制度などのヒントをお聞かせください。 この質問はさまざまな企業から寄せられるのですが、私はいつも「生成AIの時代だからといって特殊なことを学ぶ必要はない」と回答しています。 前述の通り、生成AIは使う人の能力によって性能が変わります。その能力とは「人の専門領域」に立脚するもの。たとえば人事パーソンであれば、生成AI自体の機能や理論について細かなところまで学ばなくても、専門領域である人事で生成AIを使いこなせるはずなのです。その際に問われるのは生成AIの知識ではなく、人事の知識です。 AIが飛躍的な進歩を遂げている時代にAIのことを学んでも、一般利用者としての知識にたいした差は生まれないでしょう。一方で専門知識の分野は、研さんを重ねていかなければ簡単に追いつかれてしまいます。その意味で、人事がサポートするべきなのは従来通り、従業員それぞれの分野で専門知識を磨いてもらうための研修です。 強いて言えば、プログラミングの教養があれば職種にかかわらず有利かもしれません。現在は、生成AIを活用すれば何でも開発できる時代です。外部サービスに頼らなくても、自分たちで自分たちの課題を解決するシステムを作れるのです。プログラミングの基本を学んでおけば、目の前の業務改善を信じられないほど簡単に進められるようになるでしょう。 ――組織で生成AIの活用を進める際に、注意すべきことはありますか。 現在の生成AIで主軸となっている大規模言語モデルでは、技術の都合上「AIがうそをつく」こともあります。生成AIは学習時点のデータをもとにしているので、アウトプットされた結果がリアルタイムではない可能性もあります。これらを踏まえ、「生成AIを活用する際には人による確認が必須」であることを職場の共通認識にしてほしいですね。 また、生成AIはアイデア出しやブレストなどに活用することもできますが、現時点では「人がひねり出すようなぶっ飛んだ意見」を期待することはできません。冒頭で、生成AIは世界中の人々の常識を持ち合わせていると申し上げました。高いレベルで常識的なアウトプットができるものの、常識的であるがゆえに、「常識から外れたアイデア」を出すことは難しいのです。飛躍的な発想やクレイジーな意見がほしいのなら、やはり人が頑張るしかないでしょう。 ――生成AIに興味を持つ人事担当者や、これから生成AIを活用したいと考えている人事担当者に向けてメッセージをお願いします。 生成AIの可能性を論じれば論じるほど、「人間にできることが減っていくのではないか」と感じる人もいるかもしれません。 たしかに生産性そのものでいえば、人間が機械に勝てる可能性は低いと言わざるを得ません。生成AIは30ヵ国の言語を理解し、wikipediaに掲載されているすべての事柄を記憶しています。人間が同じことを成し遂げるのは不可能でしょう。 でも、AIがこれだけ優秀だからこそ、従来は人間が担っていた仕事をAIに任せ、人間はこれまで費やしてきた時間で自由に遊んだり考えたりすることができるようになるのです。 私は、生成AIの活用が本格化しつつあるからこそ、今後は人間中心の時代になっていくはずだと考えています。生成AIの時代には、以前にも増して個人の能力が問われるようになります。人と向き合い続けてきた人事は、これからの人間社会の根幹を担う存在。大変なことも多いと思いますが、このエキサイティングな人間中心の時代に活躍してほしいですね。