生成AIで組織風土さえも変革できる ベストセラー著者が語る人事とAIの可能性
日進月歩で新技術が登場し、小型化が進展2025年には「Wi-fiを切ったスマホ」でも生成AIが使える?
――ここ1~2年、私たちの身の回りでも「生成AI」という言葉を聞く機会が増えました。そもそも生成AIとは何を意味するのでしょうか。今井さんが考える定義をお聞かせください。 「生成AI」という言葉は、実を言うと研究者の間で元から使われていた用語ではありません。 ディープラーニングや機械学習によるアプローチで実現するAIは、専門用語では「識別モデル」と「生成モデル」に分類されます。前者は顔認証や画像認識などの識別を行うAI。後者はデータが生み出される背後にある構造や表現を学習し、「自身が学習したデータと似たデータを生成できる」AIを指します。文章生成や画像生成を担うAI技術が普及した結果、メディアではこれらを総称して生成AIと呼ぶようになりました。 こうした前提を踏まえ、あえてシンプルに定義するなら、生成AIとは「既存のコンテンツを学習して新しいものを生み出せるAI」と言えるでしょう。その意味では人間が入力する文章に対応して結果をアウトプットする翻訳AIなども生成AIの一種と言えますね。 ――2024年1月に出版された著書『生成AIで世界はこう変わる』の中で、今井さんは「生成AIの技術とそれを取り巻く社会情勢は、一つの技術に関するものとしては信じられないスピードで変化している」と述べています。発刊から約9ヵ月がたちますが、その間に生成AIはどのように進化したのでしょうか。 書籍を脱稿したのは2023年12月ですが、そこから出版されるまでの1ヵ月間でも、音楽生成AIの「Suno AI」という新しい技術が登場しました。人間が考えた歌詞を入力すれば伴奏と歌唱の両方を生成できるというもので、AIが音楽全体を生み出せるようになったのです。 出版後の1ヵ月間には、動画生成AIの「Sora」が登場しています。私を含めた周辺研究者の間では、2022~2023年の時点で「動画を生成できるAIが登場するにはあと数年はかかるだろう」と見ていました。しかしその予想は大きく覆され、現実世界とまったく見分けがつかないクオリティーの1分程度の動画をAIが生成できるようになりました。 2024年9月には、AIスタートアップの「Sakana AI」が日本の名だたる大企業から資金調達を行い、シリーズAでの合計調達額が約300億円に達したと話題になりましたね。彼らが手がけているのは、自律的に長い行動ができる「AIエージェント」です。従来の生成AIは人間が入力したプロンプト(命令文)に対する回答を出すのみでしたが、AIエージェントは研究などの目的に沿って資料を集め、その情報をもとに自分でプログラムを書き、実行・検証して研究結果まで出すことができます。 加えて「小型化」も最近のトレンドです。もともと生成AIはノートPCの上などでは動かせず、あのChatGPTもOpenAI社が保有する巨大サーバーの上で動いていました。専門的に言えば「ニューラルネットワークの結びつきが1.8兆個」にもなる巨大さです。それが2024年に入ってからは、同じ性能のものを従来の200分の1程度のパラメーターで動かせるようになりました。わかりやすく言えば、Wi-fiを切った状態のノートPCでも、2023年時点のChatGPT4と同様の動作ができるようになったのです。おそらく2025年には、個人のスマホでも動かせるようになるでしょう。 ――こうした生成AIの進化は、企業の事業活動にも影響をもたらすのでしょうか。 もちろんです。これまで企業では生成AIの活用に興味を持ちつつも、機密データをプロンプトに含まなければならない場合は、外部サーバーに情報を出すことに抵抗があったのではないでしょうか。企業内のオンプレミス環境で生成AIを動かせるようになれば、こうした懸念はなくなります。事業活動における生成AI活用は、向こう1~2年で爆発的に進むはずです。 業務形態にもよると思いますが、私は生成AIの存在が、人類がこれまでに経験したどの技術革新よりも大きな変化をもたらすと考えています。生成AIを活用して生産性を向上させようとする試みは、ホワイトカラーと呼ばれる職種のほぼすべてで行われるでしょう。たとえば、株式会社サイバーエージェントでは、生成AIを活用したプログラミング業務の生産性向上を目指す実証実験が始まっています。 このようにさまざまな可能性を秘めている一方、生成AIには「使う人によって性能が変わる」という特徴があることも認識しておかなければなりません。画像認識などの識別系のAIなら、「リンゴとトマトを見分けさせる」作業は誰がやっても同じ結果が出るでしょう。しかし生成AIでは、プロンプトの書き方一つを取っても大きく結果が変わります。一般的なプロンプトを入力する限りは他者と同じようなアウトプットを出せるでしょうが、これは他者との差別化ができないということも意味しています。 誰でも生成AIを使えばすごいものを作れますが、意識しなければ「誰でも同じ」になってしまう。そうした特性をよく理解した上で生成AIの活用を進めるべきだと考えます。