生成AIで組織風土さえも変革できる ベストセラー著者が語る人事とAIの可能性
生成AIによって組織風土を改善し、職場の魅力を高める企業が増える今後は「使わないこと」が最大のリスクに
――プログラミング業務などではすでに生成AIの活用が進められているとのことですが、人事領域の業務では、どのような活用の道が考えられますか。 人事労務のルールに関する従業員からの質問に対して、生成AI技術を用いたチャットが回答する取り組みはすでに始まっていますよね。イメージしやすいところでは、給与計算などの定型業務や、人事制度の立案に関わる情報収集・アイデア出しの文脈でも、生成AIを大いに活用できるのではないでしょうか。 採用の場面では、採用担当者が候補者を評価する場合に、相手の得意領域について詳しくないケースもあるでしょう。たとえば文系出身の採用担当者は、エンジニアと技術的な会話をすることに苦手意識を持っているかもしれません。生成AIはどんな領域にも対応できる知識を持っているので、こうした場面でも活躍できそうです。 一部の企業では、一次面接をAIが担当する試みも始まっていますね。採用候補者によりますが、「人間よりもAIを相手にしているほうが緊張しない」と感じる人もいます。たとえば英語のスピーキング練習で、生身のネイティブ講師を相手にすると緊張してうまく話せない人でも、AIが相手なら緊張せずに話せるという効果もあるのです。面接でも同じように、AIが担当することで本音を引き出せる可能性があります。 新しい観点としては、「人間の常識を持ち、いろいろな人間の人格になりきることができる」という特徴を生かして、生成AIを従業員や採用候補者の可能性を広げることに使うこともできるでしょう。従業員や採用候補者ごとに、スキルや経験だけでなく人格も考慮して、期待できる成果や力を発揮しやすい職種を判定できるようになるかもしれません。 ただ私自身は、AIの技術で人を判断することには慎重であるべきだと考えています。最終的に判断するのはあくまでも人であり、生成AIはその補助をするツールとして位置づけるべきではないでしょうか。 ――正しく生成AIの活用方法を考えれば、企業内の人間関係や組織風土を改善する目的でも使えるのかもしれませんね。 そうですね。人間同士だと物理的な距離や遠慮があってコミュニケーションがなかなか進まない場面でも、生成AIが間に入ることで活性化できるかもしれません。 企業からは「部門ごとに縦割り化が進み、なかなか横の連携ができない」という悩みを聞くことがあります。こうしたケースでは、「他部門の人に生成AIが勝手に質問し、その答えを持ち帰る」という仕組みを導入することで業務遂行に役立つのではないでしょうか。 あるいは人事サーベイなども、定期的に設問を配布して回答してもらうのではなく、生成AIで日常的に従業員の本音を聞く方法へと切り替えることができそうです。半年や1年に1回のペースで従業員の意見を聞いても、結果を集計・分析している間に課題そのものが変わってしまうかもしれません。それなら、日常的に本音を集めて即対応していったほうが効果的であるとも考えられます。前述のように「AIのほうが本音を話しやすい」と感じる人もいるので、よりリアルな声を拾えるようになる可能性もありますよね。 さらに言えば、生成AIによって人間同士のコミュニケーションの問題点を感知し、パワハラや失言を防止する仕組みも実現できるでしょう。 人事領域では情報管理などの懸念もあると思いますが、それでも検討できる可能性はたくさんあるはず。生成AIによって組織風土を改善し、職場の魅力を高める企業は確実に増えます。今後は「生成AIを使わないこと」が最大のリスクとなるのかもしれません。 【生成AIの活用による、人事業務の効率化と可能性の拡大】 人事労務のルールに関する従業員からの質問への対応 給与計算などの定型業務 人事制度の立案に関わる情報収集・アイデア出し 面接での本音の引き出し 従業員や採用候補者ごとに、期待できる成果や力を発揮しやすい職種を判定 従業員サーベイでの本音の引き出し 人間同士のコミュニケーションの問題点を感知し、パワハラや失言を防止