フロリダで米史上最悪の無差別乱射 根深い銃問題とヘイトクライムの懸念
銃が簡単に買える環境と規制めぐるジレンマ
銃大国のアメリカだが、法律で銃の購入に規制をかける動きは1934年までほぼ存在しなかった。当時、アル・カポネに代表されるギャングの抗争がアメリカの都市部で激化し、1933年には遊説中のフランクリン・ルーズベルト大統領の暗殺未遂事件も発生。イタリア系移民の男性は質屋で購入した銃を使って、ルーズベルト大統領を狙ったものの、弾は大統領の隣にいた当時のシカゴ市長に命中。シカゴ市長は死亡している。 こういった事情から、アメリカでは1934年に銃火器法が施行され、ギャングが好んで使っていたマシンガンや銃身と銃床を短くしたショットガンに高い税金を課し、販売にも規制が設けられた。4年後の1938年には法改正が行われ、州を超えて行われてきた銃や弾薬の販売にも規制がかけられた。同時に、アメリカの歴史上初めて、全米各地の銃砲店に登録の義務を課し、銃の売買記録を店が管理することになったのだ。 ケネディ大統領やキング牧師が射殺された1960年代、当時の大統領であったジョンソンは、犯罪歴のある者、精神障害を持つ者に対して銃器類の販売を禁止する法案に署名した。レーガン政権下の1986年には「銃所有者保護法」が作られた。この法律ではオートマチック銃やマシンガンを将来的に個人へ販売することを禁止するものであったが、法案を通す際に全米ライフル協会(NRA)や協会に近い議員たちとの間で政治的な妥協が見いだされ、アメリカ国内にある銃器類を全てデータベース化するという試みは中止に追い込まれている。 おそらく、今回の事件によって銃規制を求める声が再燃するだろう。しかし、これまでの経緯を考えると、殺傷力の高い武器の販売規制が実施される可能性は低いと言わざるをえない。「テロか否か」という問題以上に、簡単に銃の購入ができる環境の方がより大きな問題に思えるが、アメリカの市民が長年抱えてきたこのジレンマに対する解決策はまだ出ていない。 (ジャーナリスト・仲野博文)