フロリダで米史上最悪の無差別乱射 根深い銃問題とヘイトクライムの懸念
数年前からFBIにマークされていた容疑者
2013年と2014年、マティーン容疑者はFBIの捜査対象となっている。複数の米メディアによると、以前から周囲に「イスラム国」への共感を話していたことや、自爆テロに志願してシリアに渡ったフロリダ州在住の男性とのつながりが疑われて、参考人として捜査当局がマークしていたものの、確固たる証拠は見つからず、捜査も打ち切られていた。 マティーン容疑者は少年時代に家族とともにフロリダ州に移り住み、地元の大学を卒業後、警備員として働き始めた。友人には「将来は警察官になりたい」と話しており、自身のSNSにはニューヨーク市警のシャツを着た姿で自撮りした写真を投稿していた。これまでに犯罪歴もなく、フロリダ州東部のフォート・ピアースという町で暮らしていた。家族には同性愛者に対する嫌悪感を隠さずに話していたと報じられているが、なぜ自宅から離れたオーランドにある同性愛者が集まるナイトクラブを襲撃場所に選んだのか、またイスラム過激派との接点が実在したのかなど、事件の動機については不明な点も多い。 マティーン容疑者の父はカリフォルニア州で、アフガニスタンの公用語であるダリー語によるテレビ番組のホストをつとめており、番組ではアフガニスタンの政治をテーマにして父親が様々な見解を述べるのだが、タリバンの支持を公言する父親はアフガニスタンの大統領選挙に出馬すると何度も番組内で語ってきた。父親の政治的な思想が息子に影響を与えたのかは不明だ。
米国内で無差別乱射の象徴となった「AR-15」
マティーン容疑者のアサルトライフル購入が法的には何の問題もなかった点は前述したが、殺傷力の高い武器が簡単に買えてしまうアメリカの国内事情にも触れておきたい。マティーン容疑者が犯行に使用したのは「AR-15」と呼ばれるアサルトライフルで、米軍が使用するM-4カービン銃を民間人向けに製造したものだ。 昨年12月にカリフォルニア州サンベルナルディーノで14人が殺害された事件、その年の10月にオレゴン州ローズバーグで大学の准教授と8人の学生が射殺された事件、2013年6月にカリフォルニア州ロサンゼルスの短大で5人が殺害された事件、2012年12月のサンディフック小学校乱射事件(26人が死亡)、その年の7月にコロラド州オーロラの映画館で12人が殺害された事件……。アメリカ社会を震撼させてきたこれらの無差別乱射事件に共通するのが、犯行に使用された銃がAR-15だったという点だ。扱いやすさから、女性の購入者も増加しているが、殺傷力は非常に高い。 サンディフック小学校で発生した無差別乱射事件の直後、筆者はフロリダ州立大学で犯罪学を教え、銃犯罪を専門に研究するギャリー・クレック教授に話を聞いた。クレック教授は増加するアメリカ国内の無差別乱射事件について、事件を未然に防ぐ有効な手段が存在しない現状を嘆いた。 「犯罪学者の間では、一度に4人以上が殺害されるケースを大量殺人と呼ぶ。割合で考えた場合、大量殺人はアメリカで年間に発生する殺人事件のわずか1パーセント足らずだ。学校や映画館、職場といった場所で発生する無差別乱射は社会不安を助長するため、何としても防ぎたい犯罪だが、未然に防ぐ方法はほとんどないと言わざる得ない。銃を購入する際に義務付けられている身元調査は強盗のような通常の犯罪者にのみ、高い抑止力があると言えるだろう」