課題に対する「解像度の高さ」こそ事業成長に必須。資金調達を成功させるスタートアップの条件
投資家は人という生き物の変化と向き合う存在
第1号投資案件となったブイクックは、talikiファンドによる最初の資金調達を経て、続くプレシリーズAで1.1億円の調達にも成功し、順調に事業を拡大。中村氏も「最初の投資からきちんと成果を上げており、誇らしい案件の1つです」と話す。 こうした投資先となるスタートアップの成長から、学んだこともあると言う。 中村氏「投資を通じてスタートアップの成長過程を見るなかで、人は変化する生き物だなと改めて思います。起業家というと、何を目指すのかが明確で、それが変わらないイメージがあると思うのですが、自分のライフステージの変化により、ビジョンや組織のあり方はどんどん変容していくもので、1つのビジョンだけを追い続けるのは難しいと思います。もともとIPOは必要ないと言っていた起業家も、事業をやっていくうちによりインパクトの大きな課題解決のためには資本市場で存在価値を証明すべきだからIPOしたいという気持ちに変わるケースもあります。だからこそ私たち投資家は、人という生き物の変化と向き合う存在だとつくづく感じますね」 これまで数多くの社会起業家への支援や投資を通じ、社会課題と向き合ってきた中村氏。最後に、中村氏の視点で今後の市場動向を次のように話す。 中村氏「投資の世界では近年、ESG投資がトレンドになっていますが、とくにビジネスやインフラが成熟した日本市場では、やはり社会課題を解決するビジネスがフロンティアだと考えています。それらの企業への投資はインパクト投資とも呼ばれ、現在は健康や環境領域の上場株への投資が主流ですが、最近は投資家の間でほかの領域にももっと目を向ける必要があるのではないかと、分散化する動きが見られます。こうしたなか、健康や環境以外の社会課題の解決に取り組む企業が、今後新たなフロンティアとして注目され、投資家からの関心と資金が見込まれ、大きな成長が期待できると考えています」 社会課題をビジネスで解決するという、事業化が難しい領域で投資家として活動する中村氏。投資先を見極める際、「課題への解像度の高さ」を重視すると話していたが、これは社会起業家に限らず投資を受ける際に意識したいことだ。 解像度が高まるほど、参画してくれる関係者の質が向上し、より多くの人や資金を集めるための説得力につながる。課題を追求し本質に近づくことが事業の拡大に通じる可能性があるとすれば、今一度、自社のビジネスが解決すべき課題に向き合ってみてはどうだろうか。
文:吉田 祐基 /写真:小笠原 大介