【南海トラフ地震を正しく知る②】南海トラフ地震の被害は東日本大震災を凌駕する? 日本経済崩壊の恐れも
(白石 拓:作家・サイエンスライター) ■ 巨大地震のマグニチュード 地震データのうち、周知のとおり、「震度」は各地点の揺れの大きさを示し、「マグニチュード」は地震の規模(放出エネルギーの大きさ)を表します。M7以上の地震は「大地震」、M8前後かそれ以上の地震は「巨大地震」に分類されますが、東日本大震災(2011年)を引き起こした東北地方太平洋沖地震のように、M9クラスのとりわけ大きな地震を「超巨大地震」と呼ぶこともあります。南海トラフ地震はM8を超える巨大地震になると考えられているものの、超巨大地震になる可能性もあります。 【写真】図1 南海トラフの想定震源域(左)とAB地点の断面図(右) 日本の震度階級は「7」までしか設定されていませんので、どんなに激しく揺れても震度は7になります。対して、マグニチュードには上限はありませんが、地球上で発生する最大のマグニチュードは理論上「10」とされています。これまで世界史上最大のマグニチュードを記録したのは1960年に南米で発生したチリ地震で、M9.5でした。 ■ 南海トラフ地震はM9.1? 地震は地下の岩盤が強い力で破壊されて急激にずれ動く現象です。このときずれ動いた場所を断層といい、地震を起こした断層を震源断層、震源断層の広がりを震源域と呼びます。また、震源断層の中で最初にずれ動いた箇所が「震源」になります。 一般に、震源域が広いほどマグニチュードが大きくなります。通常、M8程度かそれ以上の巨大地震のほとんどはトラフや海溝などのプレート境界で発生しますが、それは震源域が広いからです。東北地方太平洋沖地震の震源域は、長さ約450km、幅約150kmでした。 南海トラフ地震の震源域を正確に予想するのは難しいですが、南海トラフの全長は700kmもあり、岩盤破壊が全域に及んだときの震源域は広大で、マグニチュードは東北地方太平洋沖地震を凌ぐ9.1に達する可能性があります。マグニチュードは対数で計算され、0.1増えると地震の規模は約1.4倍(1.0増えると約32倍)になります。 仮に、南海トラフ地震が最大規模になった場合、被害地域は関東から九州・沖縄までの29都府県に及び、死者数は最悪で23万1000人(2019年に中央防災会議が想定)としています。これは東日本大震災での死者・行方不明者数2万2325人(2024年3月1日現在。死者数は行方不明者・災害関連死を含む)の10倍を超える甚大なものです。