「200円」でも嬉しい…認知症の人が痛感する、働くことの「重要な意味」…私らみたいな者でも使ってくれるのだったら
「ここに来ていたら元気になるよ」
この「ハタラク」という取り組みには現在、岡山市内の7つの介護事業所と、15の企業や団体が参加している。そのうちの一つである岡山市北区で認知症の予防に力を入れている「デイサービスセンター どんぐりハウス」を訪ねた。 このデイサービスでは、82歳の女性が認知症の予防の為に、手袋を作っている会社から依頼された内職をしていた。返品されてきた商品の数をチェックして商品タグを外す作業で、謝礼は1セット1円だ。 「(少しでもお金を貰えるのは嬉しいですか? )嬉しいよ。しれとるけど。ひと月一生懸命しても2000円あるかないか。ここに来ていたら元気になるよ。家で誰も話し相手が居なくてぼーっとしているのでな」 長年、認知症に向き合ってきたデイサービスの管理者に話を聞いた。 「元々こちらに来られている方で、『私は仕事に来てるんだ』という方がおられまして、その方は『仕事に来ているのに、どうして給料が貰えないんだ』というようなことがモヤモヤと頭の中である中で、この活動に参加したという経緯があります。 皆さん、意欲を持って活動されてますので、中には有償ボランティアでお金を貰うことによって、非常に喜ばれますよね。そういう姿を見るのは嬉しいですね。 認知症になると、やっぱり自分に自信がなくなりますよね。自信を取り戻すというのが一番いいケアになると思います。 自信には何が一番大事かというと、人から『ありがとう』と言ってもらったり、極端に言えば、その対価として賃金を貰うということが、その人を取り戻すということの重要な要素になるんじゃないかなというふうに思っています」(「デイサービスセンター どんぐりハウス」管理者 早見満暁さん) このデイサービスの利用者の殆どは認知症だが、利用者もスタッフもニコニコしていて、とても穏やかな空気が流れていた。81歳の認知症の女性が胸に「コープ」と書かれたエプロンを付けて、お出かけの準備を始めた。 「(胸に「コープ」と書いてますけど? )本当じゃなあ、これは私のものじゃないんです。(エプロン付けて今からどこへ行くのですか? )どこ行くの? 知らんのよ、私も。何も知らないの。ぼーっと生きとるから、何をどうするのか、さっぱり分かりません」(認知症の女性・81) スタッフが付き添って、車で5分ほどのスーパーマーケット・コープ西大寺に向かった。ここでは月に2回、店舗の外回りで草取りをするのだが、この日は雨が降っていたため、初めて店舗内の掃除をすることになった。 「綺麗にするのはいいことだからね。自分の家だってそうだから。私ら主婦だから。毎日掃除はせないけんし。あまり面白くはないけど(笑) (終わった後に少しだけですけどお金を頂けると聞いていますが? )ああ、そうですか。知りませんけど。それは嬉しいことですね。ありがたいことですね、本当に」 このスーパーマーケットでの作業は月に2回。1回30分ほどで謝礼は200円だ。付き添って一緒に掃除をするデイサービスのスタッフが、常に見守っている。 「頑張ってここで仕事をして、後で少しでもお金をいただいて、それでものを買うというのが利用者さんはそれを生きがいというか、毎日楽しみにして来られているので、まだまだこれからも頑張ってもらいたいと思います」 掃除した後で店長から謝礼を受け取ると、認知症の女性は嬉しそうな笑顔で御礼を言った。 「いやあ、もう私はお金を貰うなんてことは考えたことないからな。嬉しいです。(封筒の中身を見て)何が入ってるの? なんか200万円ほど入ってる(笑)。(何を買いますか? )何が買えますかね? 200円で」 この日は受け取った200円を使って、店内でアンパンと焼きリンゴのお菓子を買いレジで精算した。 「地域の介護施設の方に働いていただく場を提供するというところで、お役に立てればと思っています。 実際に来られた方も非常に楽しくされていますし、その後の買い物とかも笑顔でされているの見ると、まだまだ我々も一緒にやっていけたらなと思っています。 (報酬は)ごくわずかですけれども、それを支払うことによって働いたという実感を得て頂いて、その上でお買い物をして楽しんでいただけることに繋がっているんだと思うと、こちらもありがたく思っております」(生活協同組合おかやまコープ コープ西大寺 堤厚也店長)