「車いす社長」の父との思い出ヒントに新たな介護トラベルサービス開発
忙しくても出掛けた家族旅行の本当の理由
昨春、春山社長は満さんがこよなく愛した淡路島を家族とともに訪れた。大黒柱を失った喪失感は大きかったものの、不思議な充実感がみなぎってくることに気づいたという。 満さんは20代で、全身の運動機能が低下する進行性筋ジストロフィを発症。難病と闘いながら、介護や医療が立ち遅れている現実と直面。ビジネスチャンスととらえて介護医療機器の自社開発などに取り組んだ。車いすで全国を駆け回ったが昨年2月、力尽きて亡くなった。 仕事に明け暮れる毎日だったが、年に3回の家族旅行だけは欠かさない。満さんを中心に、満さんを介護する妻の由子さん、長男の哲朗さん、次男の龍二さん。春山家の家族4人が、いつもいっしょだった。 東北のスキー場。満さんが「俺も頂上へ行きたい」と言い出す。家族は満さんを車いすごとゴンドラに乗せて、ベレンデに降り立った。夏は海へ。満さんは全身まひながら海へ飛び込み、家族と騒いで楽しんだ。 残された写真には、いつも家族4人の笑顔が浮かぶ。春山社長は「旅のだいご味は非日常性。旅人の心を開放してくれます。年3回の家族旅行を続けることで、春山家は心を開いて話し合い、お互いを知ることができた」と振り返る。 「日常生活では言いづらい重たいテーマも、旅先なら話せることがある。父は『俺が死んだらなあ』などと、冗談めかしながらも大切なことをしっかり伝えようとし、私も多くを学ぶことができた。春山家は春山満という超重度の障害者とともに家族旅行を続けてきた。この家族旅行の体験を、介護と向き合うご家族のために生かせるのではないかと考えました」(春山社長)
父の経営哲学「狭く深く徹底的に」を受け継ぐ
春山社長は1985年生まれ。『春山満の息子』と呼ばれるのが嫌で、反発した時期もあったと明かす。アメリカでの武者修行を経て2007年、ハンディネットワークインターナショナル入社。昨年2月、満さんの死去を受けて、社長の重責を受け継いだ。 満さんから薫陶を得た経営哲学は「狭く深く徹底的に」。「グッドタイムトラベル」でも、顧客の満足を引き出すために、一切の妥協を許さない。旅行のプランニング段階で、高齢者の介護計画を立てているケアマネジャーやホームドクターの意見を聞き、宿泊先とも受け入れ態勢を入念に吟味。高齢者の万が一の体調急変にも備え、旅行先周辺での医療機関の情報収集なども怠らない。 玄関先に介護タクシーが到着したら、あとはすべてまかせてもらう。徹底したワンストップサービス体制を確立して臨む。旅行料金に関しては、宿泊代などとは別に、「トラベルケアアテンダント」の料金として、1泊2日で10万円が基本となる。 「宿泊先に関しても、私自身が視察して納得できるところしか推薦しません。バリアフリーをうたっていても設備が味気なくて、旅の華やぎが感じられない宿泊施設が見受けられるのは残念。家族風呂に当社の開発した入浴介助装置が設置されているホテルは、ゆったり安心してご利用いただけます」(春山社長) 非日常の体験で、高齢者も家族も心が揺さぶられ、精気がよみがえる。日本の家族の旅が変わるかもしれない。 (文責・岡村雅之/関西ライター名鑑)