「殺すぞボケ」従業員追い込むカスハラ 問われる企業の覚悟 国は対策義務付け、法改正へ
顧客らが従業員に理不尽な要求をする「カスタマーハラスメント(カスハラ)」防止に向けた動きが企業や自治体で本格化している。鉄道事業者は状況に応じて「サービスを行わない」といった内容を含むガイドラインを公表し、コールセンター業界では人工知能(AI)などの先端技術を活用。厚生労働省は企業側に対策を義務付ける方針で、通常国会での法改正を目指す。 【リスト】JR西日本が公表したカスハラと考える行為 「早くしろ! クズ!」「殺すぞボケ!」 JR西日本の駅員に実際に浴びせられた暴言の一例だ。ほかにも車掌をスマートフォンで無断撮影したり、お客さまセンターに無言電話を100回以上繰り返したりしたケースもあった。同社の担当者は「駅や列車内で一定数の従業員がカスハラ被害に遭っている」と説明する。 ■30分で対応打ち切り JR西は昨年5月にカスハラ対応策の基本方針を公表。駅員らへの侮辱的、差別的な発言▽暴言、土下座の要求▽会社や従業員の信用を毀損(きそん)する内容の交流サイト(SNS)への投稿▽正当な理由のない商品やサービスの要求―などをカスハラとみなすとした。 さらに、カスハラと判断した後、謝罪・説明は3回、計30分を目安に対応を打ち切るといった具体例を挙げ、従業員保護の方針を打ち出した。 国土交通省が2023年12月に公表した鉄道係員へのカスハラ調査によると、22年度に全国の鉄道会社で1124件の被害を確認し、少なくとも約3割で加害者が飲酒していた。 鉄道だけではない。日本航空と全日本空輸は昨年6月、共同で策定したカスハラに対する方針を発表したほか、タクシー会社やバス会社も相次いでガイドラインを発表するなど、交通各社で同様の動きが進んでいる。 ■AIが「励ます言葉」考案 コールセンター業界では、AIを活用した対策が始まっている。 ITサービス大手のトランスコスモスは特定のキーワードなどの音声認識や感情解析によってカスハラを検知するシステムを導入した。サービス開発本部の岩浅佑一本部長は「ベテランのオペレーターは独りで抱え込み、報告が上がってこないことがある。きちんと把握してフォローすることが重要だ」と話す。 さらにカスハラの内容に応じて生成AIが励ましの言葉を考案する仕組みを開発しており、責任者はその言葉を参考に声かけする。