「殺すぞボケ」従業員追い込むカスハラ 問われる企業の覚悟 国は対策義務付け、法改正へ
パーソル総合研究所が昨年、約2万人を対象に実施した調査で、カスタマーサポートを含むサービス系の職種でカスハラを経験したと回答した人は35・5%に上った。トランスコスモスの取り組みは、オペレーターのストレスを把握し、フォローすることで新人だけでなく、ベテランの離職を防ぐ狙いがある。
一方、富士通は東洋大と共同でカスハラを体験できるAIを開発した。犯罪心理学などを参考にカスハラに当たる言葉を生成。性別や年齢が異なるさまざまな声を合成し、リアルタイムでやり取りできる。終了後は対応の評点やアドバイス、対応した人のストレス状態などの情報が表示される。富士通は25年度の実用化を目指している。
各企業がガイドラインや技術を活用し、状況を改善できるのか注目される。
■1回の言動でも該当
深刻化するカスハラを巡り、厚生労働省は昨年12月、全ての企業に対し従業員保護の対策を義務付ける方針を示した。厚労相の諮問機関である労働政策審議会の分科会は対策強化の方針を盛り込んだ報告書案を了承。政府は通常国会に関連法案を提出する方針だ。
報告書はカスハラについて①顧客や取引先、施設利用者らが行う②言動が社会通念上相当な範囲を超える③就業環境が害される―の3要素を満たすものと定義。言動の内容や手段から判断し、1回でも該当するとした。
従業員保護の具体策として、事前にカスハラ対応方針を明確化して周知するとともに、被害に遭った従業員からの相談に適切に対応する体制整備を挙げた。「正当なクレーム」はカスハラではないとも指摘した。
東洋大の桐生正幸教授(社会心理学)は、2000年代からカスハラが顕在化したとして「企業も認識はしていたが、イメージ悪化を恐れて公にできなかった。無理難題を要求する顧客に問題があるが、企業がカスハラを育ててしまった側面もある」との見方を示す。その上で「負担を強いられた従業員が離職した例も少なくないだろう。企業には、ある程度収益が落ちても従業員を守る覚悟が必要だ」と述べた。(桑島浩任)