一瞬で奪われた日常「防火用の水を飲もうとしそのまま息絶えた人も」思い託された亡き友の被爆体験を後世に 「語り継ぐ―戦争を知らなくても」(3)
広島、長崎に原爆が投下されてから78年の歳月が経過した。被爆者健康手帳を持つ全国の被爆者は2023年3月末現在で約11万3千人で最少を更新。平均年齢は85歳を超え、高齢化が一層進んでいる。多くの人の命や生活が一瞬で奪われ、生存者も長く後遺症に苦しみ続ける実態を後世にどう伝えるのか。大きな課題に直面する中、戦後生まれの世代が、被爆者たちの体験を語り継ぐ動きも出ている。数年前に亡くなった友人との約束を胸に、千葉県の学校で朗読活動を続ける女性に話を聞いた。(共同通信=黒木和磨) ▽「平和の尊さ、子どもたちに」凄惨な歴史を継承しようと小中学校で朗読を続ける元小学校教諭の央康子さん(70) 広島市への原爆投下で被爆し、2018年10月に亡くなった小野英子さん=当時(79)=の被爆証言を、千葉県習志野市の小中学校などで朗読しています。晩年の小野さんの語り部活動を支えた友人として、生前に「体験を語り継いで」と思いを託されました。
小野さんは6歳の時に爆心地から約1・5㌔の自宅で被爆し、旧制広島県立広島第二中学校の教師だった父の山本信雄さん=当時(39)=と、姉の洋子さん=当時(8)=を亡くしています。ご自身も脱毛や高熱などの後遺症に苦しみました。東京でファイナンシャルプランナーの仕事をしていましたが、2008年に長女が住む習志野に移り住み、小中学校などで語り部活動を始めました。 小学校教諭を辞めて戦争を題材にした朗読活動をしていた私は14年ごろ、知人の紹介で小野さんと知り合い、その被爆体験に心を打たれました。「当時の記憶がフラッシュバックし赤身の肉や刺し身は食べられない」。そう話しており、苦しみを一生背負っているのだと感じさせられました。 「被爆の脅威を子どもたちに伝えたい」との思いに共感し、小野さんの活動を支える市民団体「習志野の小さな風の会」に参加。原発問題を考える集会や語り部などを通じ親睦を深めました。