タワマン住民、隣地のタワマン建設に待った「眺望を阻害している」 “高さ”めぐる紛争、裁判所はどう判断してきた?
名古屋市内にある42階建てタワーマンションの住民が、同タワマンを建てた住宅メーカーなどが隣地で建設を進めている39階建てのタワマンの30階以上の建設中止を求める訴訟がにわかに注目を集めている。 【画像】裁判の舞台となっている実際のタワマン 日経クロステックの報道などによると、2014年に完成した42階建てのタワマンは高さ約152m、建設中のタワマンは高さ約136mで、42階建てタワマンは眺望が売りだった。原告の住民らは、販売担当者から「隣地に建物が建つとしても29階まで」などと聞かされていたようだ。 住宅メーカー側とのやり取りは不調に終わったため、工事中止を求める仮処分申し立てを経て(その後取り下げ)、差し止め訴訟を提起したという。 メーカー側は答弁書で、「マンション西側隣接地における建物建設計画は現在未決定。本マンションの周辺環境・景観・眺望及び日照条件に変化が生じる可能性がある」などと記載された書面を購入者と交わし、口頭で説明したと主張しているようだ。 過去には、マンション購入者の花火の観望を売主自身が別のマンションを建てて妨げたとして慰謝料が認められたケースなどもあったが、タワマン住民にとっての「眺望を妨害されない権利」とは法的にはどのように扱われているのだろうか。不動産トラブルに詳しい秋山直人弁護士に聞いた。
●眺望利益が保護されるかどうかはケースバイケース
──「眺望を妨害されない権利」は法的にはどのような位置づけでしょうか。 現在のところ、裁判例において、「眺望を妨害されない権利」が「権利」として確立しているとまではいえない状況です。 眺望に関する利益は、一定の場合には、民法709条(不法行為)において「権利」と並んで規定されている「法律上保護される利益」に該当すると解されています。 一定の場合とは、建物の所有者によるその建物からの眺望利益の享受が、主観的なものにとどまらず、社会観念上からも独自の利益として承認されるべき重要性を有するものと認められる場合(東京高裁昭和51年11月11日決定・判例タイムズ348号213頁)、などとされています。 一方、「大阪市大阪の中心部、都市計画法上の商業地域に位置し、建築基準法上の日影規制もなく、容積率は1000%とされている土地の上に立てられた居住用マンション」の事案について、眺望利益の享受が、社会通念上独自の利益として承認されるべき重要性を有しており、法的保護に値するものであったとは認められない、と否定している裁判例もあります(大阪地裁平成20年6月25日判決・判例タイムズ1287号192頁)。 大都市で、高層マンションや高層ビルが建つことが想定されている地域であることから、眺望利益の保護を否定したものです。 次に、裁判例は、眺望に関する利益が「法律上保護される利益」に該当する場合でも、眺望利益の侵害行為について違法性が認められるのは、「侵害行為が、具体的状況の下において、・・・行為者の自由な行動として一般的に是認しうる限度を超えて不当にこれを侵害するようなものである場合に限られる」(前記東京高裁昭和51年11月11日決定)と判示しています。 その趣旨としては、眺望利益の性質が、騒音や大気汚染、日照ほどには切実なものではないとの観点や、眺望利益を保護することで、周辺の土地の財産権に重大な制限を加えることになるとの観点から、違法性が認められるのは、侵害行為の態様や程度において社会的に容認された行為としての相当性を欠く場合に限られる、というものと解されます(景観利益に関する最高裁平成18年3月30日判決・判例タイムズ1209号87頁参照)。