タワマン住民、隣地のタワマン建設に待った「眺望を阻害している」 “高さ”めぐる紛争、裁判所はどう判断してきた?
●眺望利益に関する紛争、2つのタイプ
──今回のケースを理解するうえで参考となる裁判例はありますか。 眺望利益に関する紛争については、大きくは次の2つのタイプに分けられます。 (1)契約関係にない相手方が、建物所有者の有する既存の眺望利益を不法に侵害したと主張するタイプの紛争 (2)マンション販売業者とマンションを購入した顧客といった契約当事者間において、眺望利益に関する信頼違背が生じたことを理由として損害賠償等を求めるタイプの紛争 いずれについても複数の裁判例があり、前記東京高裁昭和51年11月11日決定などがリーディングケースとされていて、少数ですが建築差し止めを認めた裁判例もあります(横浜地裁小田原支部平成21年4月6日決定・判例時報2044号111頁など)。 今回のケースは、(2)のタイプの紛争に分類できます。 (2)のタイプの紛争では、たとえば、マンション購入の際に隅田川花火大会の花火をマンション室内から観覧できるという触れ込みのもとに当該マンションを分譲販売したマンション販売業者が、後に近くに別のマンションを建築して花火が見えなくなってしまったことについて、信義則上の義務違反を認めて、慰謝料合計60万円、弁護士費用6万円の支払を命じた裁判例(東京地裁平成18年12月8日判決・判例タイムズ1248号245頁)があります。
●差し止め請求「ハードル高い」→慰謝料決着の可能性「かなりある」
──今回のケースで、仮に「隣地に建物が建つとしても29階まで」と担当者が言っていた場合、あるいは約束の形にまでなっていた場合、その一点で差し止めが認められるようなことはあるのでしょうか。 前述(2)のタイプの紛争では、マンション販売業者等が、買主に対して、購入時にどのような説明をして、どのような期待を持たせたかという点が重要です。 仮に担当者が「隣地に建物が建つとしても29階まで」と多くの購入者に明言していたとの事実が証拠上認められるような場合には、信義則上の義務違反を認める重要な根拠になり得ます。 もっとも、通常、裁判所の判断は、諸般の事情を総合的に考慮してなされるので、その一点で差し止めが認められる可能性は低いと思われます。 仮に営業担当者がそのようなセールストークをしていたとしても、一方で重要事項説明書において、「本マンションの周辺環境・景観・眺望及び日照条件に変化が生じる可能性がある」などと記載して説明していた場合には、その点も考慮されると思われます。 そもそも、建築の差し止め請求は、仮に認められれば土地所有者の所有権に対する重大な制約となりますので、一般論として、そう簡単に認められるものではなく、ハードルは高いといえます。 仮に「隣地に建物が建つとしても29階まで」と担当者が言っていたという事実が認められたとしても、建築の差し止めまでは認められず、信義則上の義務違反による慰謝料等が認められるにとどまる、という可能性もかなりあるものと予想されます。 〔参考文献〕 「眺望を巡る法的紛争に係る裁判上の争点の検討」(弁護士伊藤茂昭ほか/判例タイムズ1186号4頁) 『隣地・隣家紛争 権利主張と対応のポイント』(弁護士川口誠ほか) 【取材協力弁護士】 秋山 直人(あきやま・なおと)弁護士 東京大学法学部卒業。2001年に弁護士登録。所属事務所は四谷にあり、不動産関連トラブルに特化して業務を行っている。不動産鑑定士・宅地建物取引士・マンション管理士・賃貸不動産経営管理士の資格を保有。 事務所名:秋山法律事務所 事務所URL:http://fudosan-lawyer-akiyama.com/