高校統合で「工業科軽視」する普通科教員に不信感 進学指導に過度な干渉、生徒の可能性潰す恐れ
工業科の本質を理解しない校長による学校運営の弊害
普通科教員のふるまいについて、工業科の責任者でもある学科長に何度も疑問を呈していた木村さん。最初こそ学科長も木村さんと同様の不満を抱えており、学科長会議や進学指導委員会で議論を持ちかけていたようだが、その後も方針は曖昧なまま、いつしか意見を言わなくなっていったという。 「普通科の考えに抗えない状況が続き、学科長も無力感から意見を主張しなくなったようです」 学科長にも問題はあるが、何より深刻だったのはC高校としての教育方針が定まらないまま学校運営がなされていたことだろう。その責任はトップにあると木村さんは指摘する。 「校長や副校長、教頭が工業科の教育の本質を理解していなかったんだと思います。必ずしも工業科の先生が工業高校の校長になるわけではありませんから、工業や工業高校がどういうものかを心得ていない人が上に立つことはよくあります。 本来、工業科は、普通科の教科や試験では測れない生徒の可能性を追求する学び場です。普通科の教員は、『大学に進学したとき、普通科から来る学生たちに負けないように』と言いますが、工業系の大学は、工業高校や工業科出身の生徒の特性をよく把握しています。私には、普通科の教員が自分たちの指標がすべてだと勘違いしていたように思えてなりません。そして、それをよしとしていた校長たちトップの責任は大きいです」 普通科教員の影響は進路指導にとどまらず、普段の学習をも浸食していった。 「例えば、工業高校においてレポート提出は締め切り厳守です。われわれ工業科の教員は、生徒に『そもそも期限とは何か』から指導するのです。それが、就職後に直面する『納期』の大切さや、上長への報告などに生きてくるからです。A工業高校でも、部活動の顧問は当然『部活動よりレポート提出が優先』という認識でした。 しかしC高校では、工業科の生徒がレポート提出のために部活動を遅刻・欠席すると、顧問の普通科教員が工業科学科長の元に来て『レポートは家でやらせてくれ』としつこく言ってくるのです」 ほかにも、大学進学のための特別な補習授業と、工業科の資格試験の時期が重なったときに、「進学補講を優先すべき」と強く主張してきたという。たしかに工業科の生徒は、センター試験の結果が振るわないケースがほとんどだったというが、工業系大学が工業科出身の生徒に求めるのはセンター試験当日の点数ではない。専門知識や資格などから総合的に判断する。 それにもかかわらず、工業科軽視ともとれるような言動を繰り返す普通科教員に腹を据えかねた木村さんは、「私が持っているのは、高等学校教諭一種免許(工業)だ。C高校の工業科が普通科に吸収されるのなら、もはや自分がいる意味を見いだせない」と退職に至った。