サッカーのゴール自動判定システムってどうなってるの?
ハリルジャパンがまさかの黒星発進を喫した、1日のUAE代表とのW杯アジア最終予選初戦で物議を醸した「幻のゴール」が、依然として波紋を広げている。 1点を追う後半32分に、FW浅野拓磨(シュツットガルト)が放ったボレー。中継したテレビ局のVTR映像では完全にゴールラインを割っていたが、レフェリーは相手GKが掻きだしたと判断。UAEの隣国カタールの審判団だったこともあり、いわゆる「中東の笛」だとさまざまな憶測が飛び交った。 日本サッカー協会の田嶋幸三会長は試合後、国際サッカー連盟(FIFA)とアジアサッカー連盟(AFC)へ厳重抗議する意向を示した。しかし、例え誤審と認められても結果が覆ることはない。 UAEの国内紙『THE NATIONAL』は代表チームの劇的な勝利を伝えるとともに、浅野のシュートに対して「ゴールラインを超えていた」と認めてもいる。こうした状況を受けて、誰もが募らせるのが「なぜサッカーにはビデオ判定制度がないのか」という思いだろう。 古くは大相撲で1969年の五月場所から導入されたビデオ判定は、現在ではテニス、日米のプロ野球、五輪を含めたバレーボールの世界三大大会などで幅広く実施。昨秋に開催されたラグビーのW杯でも、目視では判断できない微妙なプレーに対して、レフェリーがテレビマッチオフィシャルと呼ばれるビデオ判定を要求するシーンが何度もあった。 しかし、サッカー界においては、ビデオ判定の必要性を訴える声が根強くあったにもかかわらず、現時点では導入に至っていない。 実はサッカーのルールはFIFAではなく、国際サッカー評議会(IFAB)によって管理されている。そして、審判団の判定を補助する制度としてIFABが承認しているのは、ゴールラインテクノロジー(GLT)と追加副審(AAR)の2つしかない。 GLTはハイスピードカメラあるいは磁気センサーを駆使して、ボールがゴールラインを完全に超えていたかどうかを判定。ゴールインの場合は1秒以内に主審の腕時計が振動で震え、同時に「GOAL」の文字が映し出される仕組みになっている。 W杯ブラジル大会で採用されたのを契機に、すでにUEFAチャンピオンズリーグやプレミアリーグ、セリエA、ブンデスリーガ、今夏にフランスで開催されたユーロ2016でも導入されているGLTだが、ネックはコストがかかりすぎる点だ。 スタジアムに機材を設置する場合、初期費用だけで日本円にして4000万円から5000万円を要し、さらには試合ごとにランニングコストもかかる。スタジアム内の高い位置、基本的には屋根にカメラを設置しなければならないため、すべてのスタジアムで屋根付きの条件が整っていなければ不平等が生じる。 こうした事情を踏まえて、JリーグではGLT制度の導入を見送っている。GLTが作動していればUAE戦における浅野のゴールも認められたはずだが、他にも5つのカードが組まれていたアジア最終予選のなかで、埼玉スタジアムだけで採用する例外を設けるわけにもいかない。 UAE戦後の取材エリアで、MF本田圭佑(ACミラン)は浅野の「幻のゴール」に関してこんな言葉を残している。 「なぜ第4審判がいないのかが疑問でしたね」 本田が指摘した「第4審判」とはAARのことだ。通常は主審、副審2人、第4審判の4人で構成されてきた審判団に2人を追加。両方のゴールライン付近に配置して、ゴールかどうかの見極めや、ペナルティーエリア内におけるさまざまな事象に対する判定の精度を向上させていく。 AARはすでにUEFAチャンピオンズリーグやセリエAで導入されていて、本田にとっても見慣れた光景であるだけに、前出のコメントが思わず口を突いてしまったのだろう。